１３日に８５歳で亡くなった漫画家の松本零士さんは、幼少期を兵庫県明石市で過ごした。２００７年１０月には、明石市立天文科学館（同市人丸町）で講演会を開いた。松本さんとの思い出について、当時講演を依頼した井上毅館長（５４）が振り返った。

■幼心くすぐるデザイン

　父親の仕事の関係で幼少期に明石公園近くで暮らしたという松本さん。講演会では、明石での思い出について多く語った。宇宙に関心を持ったのは、明石の地だった。きっかけは同館の北側にある高さ７メートルの子午線標識「トンボの標識」を見たことだという。日本の時刻の基準となることに加え、星柄をあしらった宇宙を感じさせるデザインは幼い心をくすぐった。

　その後、宇宙を題材にした名作を生み出した。代表作の一つ「銀河鉄道９９９」で描かれる星空は、明石にいた頃に見た星空をイメージしていると述べた。

■同じ映画館で同じ映画を見ていた

　手塚治虫とのエピソードも語った。松本さんのデビュー作「蜜蜂（みつばち）の冒険」に影響を与えた映画「くもとちゅうりっぷ」を５歳のころ、明石の映画館で見た。一日中映画館にいて、何度も見たという。後に、手塚治虫が、同じ映画館で同じ映画を見ていたことが分かった。幼い頃同じ空間を体験したことに、２人は大いに盛り上がったという。

　講演会前には、当時学芸員だった井上さんと共に天文科学館周辺を散策した。井上さんは「松本さんの記憶力の良さには驚いた」と話す。

　散策しながら「ここには小屋があった」などと語り、細かな地形まで覚えていたという。そして、トンボの標識を前にすると「これだ」とうれしそうに目を細めた。井上さんは「松本さんにとって明石は色鮮やかな、いい思い出だったのだと感じた」と振り返った。

■「９９９」や「ハーロック」　書店に代表作追悼フェア

　ジュンク堂書店明石店（明石市大明石町１）は、松本零士さんの作品を集めたフェアを開催している。代表作「銀河鉄道９９９」や「宇宙海賊キャプテンハーロック」などが並び、「ご冥福をお祈りします」と追悼メッセージを添えた。

　同店では訃報直後、購入者が増えたという。東謙児店長（３７）は「何といっても銀河鉄道９９９。名作なので毎月売れていましたが、ニュースを見て中高年の人が昔を懐かしんで買われていく」と話す。

　明石で幼少期を過ごし、子午線碑を見ては宇宙に思いをはせていたという松本さん。作品の源泉となった地で、改めて手に取ってみてはいかがだろうか。