兵庫県明石市内で開店祝いの花を見つけました。「新規オープンの店かな」とよく見ると、その横に衝撃的過ぎる張り紙。「本日は花を取らないでください」。えっ、スタンド花って持ち帰りアリですか。しかも「本日は-」とは…。取材すると、この慣習はあの県では常識でした。(ネクスト編集部)
■イイミミで論争
「近所に開店した八百屋の花輪の花を、店主に断った上で取っていると『信じられへん。開店したばかりの花を取っていくなんて』と面と向かって言われました」
本紙イイミミに2016年5月、こんな投稿が掲載されました。これが呼び水になり、「『花は早くなくなる方がええんやで』と花束にして持ち帰る人がいてびっくりしたり、あきれたり」「開店早々の持ち帰りはちょっと悲しかった」「しなびかけより、きれいな間に喜んでもらえるのも果報かな」とさまざまな声が寄せられました。
生花卸販売を全国展開する日比谷花壇(東京都港区)に聞くと、スタンド花から生花を持ち帰るのは、西日本の一部や中部地方で見られ、特に名古屋では「祝い花が早くなくなるのは、繁盛の証拠」と歓迎するとのこと。一方、東日本ではあまりみられないそうです。
■開店お礼を兼ねて
「愛知県豊橋市では当たり前」と、同市のフラワーハウスたなべは、ブログでこの慣習を紹介しています。
「2代目さん」によると、先代時から、新規オープンなどの際は、店側が来店客に縁起物として渡していましたが、いつしかご近所さんが持ち帰るように。「目くじらを立てるのも…」と黙認するうち、慣習になったのではと推察します。現在、豊橋では花が抜かれたスタンドをあえて3日ほど店頭に置くそうです。
年間を通じてスタンド花によく選ばれるのは、華やかで見栄えのするユリやバラ、アルストロメリア。その中から、ユリや切り花の胡蝶蘭など、高額の花から抜かれるそうです。
「葬儀では参列者が会場前のスタンド花を持ち帰ります。出棺が終わると、花の納品業者が持ち帰り用の花束を作るのが慣例です。花の長さを切りそろえ、生花店の包装紙で包み、希望する参列者に渡します。本数は最低でも菊5本とユリ1本に緑の葉。祭壇の花? さすがにそこまでは…」
■飾る前に抜かないで
「店頭に飾る前に抜かれることも」
フラワーショップBLOSSOM(ブロッサム)神戸・三宮店の菊地真也人(まやと)店長(25)が打ち明けてくれました。
その場を離れたわずかの時間で、花を抜かれることはしょっちゅう。保護用セロファンで花を覆っても、心ない人は後を絶たないそうです。
「納品前に抜かれた場合、私どもの責任ですので花を補充し作り直しています」
愛知県内でも同様で、生花店は注意書き張り紙を用意。持ち帰りの“解禁日時”を示すことで、角が立たないよう配慮するそうです。
◇
生花持ち帰りという慣習と愛知県人の気質は関係するのでしょうか。「蕎麦ときしめん」「日本の異界 名古屋」など名古屋を題材とした著書で知られる清水義範さん(69)=名古屋市生まれ、東京都在住=に聞き、文書で回答を寄せてもらいました。
-なぜ愛知では持ち帰る?
「名古屋人は得なことが大好きである。開店花は、開店したことを祝ったのであり、それ以降はもう用ずみで、ただ枯らしてしまうのはもったいない。用ずみの物だから、もらって帰って飾れば得なのである。店側も多くの人に開店をアピールできたのだから不服はない」
-東京では?
「普通は持ち帰らないと思う。東京人は知らない人とあまり関係しないように生きている。持ち帰れば、盗ったと思われるかもしれない。だから、他人の物には手を出さないのである」
【スタンド花】新店舗やイベント会場などを彩る祝い花。紅白の花輪タイプ、風船などの装飾がついた物など相場は1万~3万円。