表面が程よく凍った“半シャリ”が食べ頃? 給食のアイドル「とくれん」
表面が程よく凍った“半シャリ”が食べ頃? 給食のアイドル「とくれん」

 待ちきれない思いでふたを開ける。ほどよく凍った表面に山折りにした紙製スプーンを差し入れると、シャリッと涼やかな感触。ほどよい甘さ。ああっ、きょう○○君休んでるから1個余るやん! やったー!! じゃんけんするで-。

 献立になるたび、そんな闘いが教室で繰り広げられてきた神戸の給食のアイドル、通称「とくれん」。正式名称は「プデナーオレンジ80」、献立表には「みかんゼリー」と表記されるが、誰もそんな名前では呼ばない。絶対、「とくれん」。

 その名は「徳島県加工農業協同組合連合会」の略称から。同連合会と神戸の食品卸会社が給食向けのデザートとして企画した。神戸市教育委員会によると1975(昭和50)年4月、「フルーツゼリー」の名で初めて提供されたという。

 同連合会の解散後、約17年前から「浅井缶詰」(徳島県阿南市)が商権と加工設備を引き継ぎ製造を続ける。もはや「とくれん」ではないが味はそのまま。ふたの手書き風のロゴ「とくれん」も不変だ。市教委によると、近年は年1回しか提供しない年もあったが、2017年度からは給食費を改定したこともあり、従来通り年2、3回はメニューに加わるという。

 同社の田中明徳社長(47)に聞くと、大人になってもあの「シャリッ」を求める人は多いらしい。過去、ヒッチハイクでたどり着き「工場見せてください」と頼み込んだ若者。徳島出張にかこつけて買いに来たビジネスマン(直販はしていない)。「披露宴で出したい」と連絡してきた花嫁。「全員、神戸の人。関西を中心に全国に出しているが熱狂的なのは神戸だけ。よく分かりませんが、ありがたいことです」と笑う。

 その熱を裏付けるかのように、神戸・阪神間でチェーン展開するかつ丼専門店「吉兵衛」(中央区)は、今年2月から「とくれん」の販売を始めた。

 「サラリーマンが子どものころを思い出し、活力になるデザートを」と考えたとき、神戸っ子の社員から異口同音にその名が上がったという。同社管理本部の宮西千春さん(31)もその1人。「なんであんなにうれしかったのか。やっぱり“半シャリ”が良かったんでしょうね」。それだけに解凍状態にはこだわり、最高の状態で提供できるように試行錯誤を重ねたという。評判は上々で、持ち帰り用にまとめ買いする人も。

 最後に、くだんの田中社長がトリビア(豆知識)を一つ教えてくれた。「『プデナー』っていうのはね、勢いで決まった造語なんですよ」。えっ、てっきりミカンの品種だと思っていました。

 「プは『プリンのような』、デは『デザート』、ナーは…なんやったかな」。2度びっくり。そして調べても「ナー」の謎は解けなかった。記者は大阪の出身。どなたかご存じでしたら教えてください。(上杉順子)

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 神戸っ子が共有するオリジナルの名物や体験って何だろう? 神戸で育った人には懐かしかったり、移り住んだ人は不思議だったり。世間に知られたイメージとは違う、そんな「B面の神戸」を探して紹介します。