激しい倦怠(けんたい)感や痛みが続く「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」の患者を対象に、理化学研究所(神戸市)や大阪市立大病院などが、治療薬の開発に向けた世界初の臨床試験を始めた。日常生活に支障をきたすほどの症状となるが、治療法はなかった。理研の渡辺恭良チームリーダーらの研究で、患者の約4割の脳で顕著な炎症が起きていることが分かっており、薬の安全性の検証や発症メカニズムの解明を目指す。(霍見真一郎)
臨床試験は、国が認定する同病院の「臨床研究審査委員会」が承認した。
慢性疲労症候群は、健康だった人が突然、強い疲労感に襲われ、微熱や筋肉痛、抑うつ症状などが長期にわたって続くようになる。しかし、治療法が定まっていない上、社会の理解が広がらず「なまけ病」と言われて傷つく患者も多い。
理研の渡辺チームリーダーらは2014年、治療に向けた突破口となる研究成果を発表。患者と健常者の脳内を比べたところ、患者には、認知機能の低下や痛み、抑うつなどと相関関係がある扁桃(へんとう)体や視床、海馬(かいば)に顕著な炎症があることが分かった。
これを足掛かりに、今回、臨床試験を始めた。これまでに患者の男性19人(26~54歳)と女性38人(25~60歳)にPET(ペット)検査(陽電子放射断層撮影)を行い、脳内に顕著な炎症がある人を抽出。このうちすでに男性3人に投薬試験を始めている。最終的には20年末ごろまでに計90人にPET検査をし、うち炎症が顕著な30人に投薬試験を行うことを目指す。
臨床試験では、投薬前に改めてPET検査をし、血液や認知機能、自律神経機能などを調べる。現在脳梗塞の後遺症などに使われている既存薬を計4カ月投与した後、再び各種検査をして炎症や症状が和らいでいるか確かめる。
渡辺チームリーダーは「この病気の患者は、脳の炎症部位に特徴がある。薬の効果が実証されれば、各症状に特化した新薬を開発できる可能性がある。治療法の確立まで5合目まで来た」と話している。
【筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)】米国ネバダ州の村で1984年、約200人の大人や子どもが突然仕事や学校に行けなくなり、国の調査で明確な原因が見つからなかったため「症候群」という名がついた。理研によると患者は、世界で1700万人以上、国内に30万~40万人いるとみられるが、確立された治療法はない。日本では89年に国内1例目が発見され、研究が進められてきた。保険診療で認められている検査では異常が見つからず、心の病気と思われがちだが精神科を受診しても病名がつかない場合が多い。