施術で訪れた訪問先で特殊詐欺被害を食い止めたとして、神戸市西区伊川谷町別府の神戸すみれ治療院に勤める鍼灸(しんきゅう)師黄正雲さん(54)が神戸西署から感謝状を受けた。施術中に耳にした住人の通話に違和感を抱き、粘り強く説得した。
署などによると、黄さんは7月下旬の夕方、常連客の女性にはりを打つため西区内の民家を訪れた。女性の夫が「(午後)4時に警察から電話がある。詐欺事件の共犯じゃないかということで事情聴取を受ける」と慌てていた。
いぶかしく思いながらも、女性への施術を始めた。すると、夫が郵便受けのダイヤル番号や玄関の施錠などについて携帯電話で話す声が聞こえてきた。30分後、施術が終わってもやりとりが続いている。
黄さんは「警察はそこまでの個人情報を聞かない」と声をかけた。だが、夫は事情聴取を受けていると思い込み、通話をやめる気配がなかった。
別の訪問先を回って治療院に戻った黄さんは、上司に相談し、女性の家の固定電話に改めて電話した。夫が出たが、状況は変わっていない。そこで、車を走らせて再訪問し、その場で110番。警察官の指示を受けたことで、夫は電話を切ったという。
署は、虚偽の容疑をでっち上げて金銭をだまし取る「警察官がたり」の特殊詐欺を防いだとして感謝状を贈呈。黄さんは「困っている人がいたら誠実に対応するのが鍼灸師の使命。当たり前のことをしただけです」と話した。(長沢伸一)