南海トラフ巨大地震をはじめ大規模災害の発生が懸念される中、建物の耐震化などの対策は急務だ。阪神・淡路大震災の教訓を発信し続けてきた兵庫県。15日告示の県知事選でも、全国の先頭に立って対策をどう推し進めていくのかが注目される。
海の近くに古い家屋が軒を連ねる。兵庫県南あわじ市福良地区。将来起こる危険性がある南海トラフ巨大地震で、震度7の揺れに加え、最大で高さ8・1メートルに達する津波の襲来が想定される。
「そのときはそのとき」
津波の浸水想定区域で商店を営む女性(75)は諦め顔でつぶやいた。店舗兼住宅は築80年超。淡路市志筑にあった実家は阪神・淡路大震災で倒壊し、生き埋めの母親は数時間後に助け出された。だが、福良では建物の下敷きになったまま津波にのまれかねない。
かつて約1万人だった福良地区の人口は現在、ほぼ半数に。「いつまで商売を続けられるのかも分からんのに、なんぼ補助金をもらっても改修は難しい。どないぞ生きてるうちに地震が来んように、と願うだけ」。女性は人通りがまばらな商店街に目をやった。
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1981年5月以前の旧耐震基準で建てられた住宅の耐震化は、家屋倒壊で多くの人が亡くなった阪神・淡路で最大の教訓だ。耐震診断などを市町村に委ねた他の都道府県とは違い、兵庫県は助成事業を県内全域で推進。耐震化率の目標も国を上回る「2015年度に97%」を掲げ、被災県として先導役を目指した。
だが、現実は13年時点で約85%。全国平均の約82%よりは高いが目標には届かず、県は昨年春、目標達成を25年度に先延ばしした。
県が推計する県内各地の住宅耐震化率は神戸市など都市部で90%を超えるが、農山漁村部など人口減少が進む地域では60%未満も。世代を超え、地元で暮らし続けられるのか。将来を見通せず、耐震化に踏み切れない住民の姿が浮かぶ。
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昨年4月の熊本地震。熊本県宇土(うと)市役所は5階建ての4階部分がつぶれ、倒壊寸前になった。書類も取り出せず、災害対策本部は駐車場のテントに移設。庁舎は築50年を超え、同市は「耐震性の問題は分かっていた」と認める。同県内では計7市町の庁舎が一時的に使えなくなった。
兵庫も人ごとではない。総務省消防庁による昨年3月末時点の調査では、防災拠点となる県庁舎63棟のうち17棟が未耐震。耐震化率約73%は都道府県でワースト6位だった。
どの庁舎が未耐震なのか、「個別には公表していない」と県災害対策課。神戸新聞社の取材では本庁舎西館や篠山集合庁舎本館などが未耐震だが、具体策は決まっていない。一方、愛知県は耐震化した防災拠点の全庁舎を含め、県有施設の個別状況を公表。「耐震化を呼び掛ける以上、県には説明責任がある」とする。
住宅、公共施設ともに急がれる一層の耐震化。その道筋を示せなければ、兵庫県が発信してきた「震災の教訓」はかすむ。(高田康夫)