現職と新人3人の争いとなった兵庫県知事選。7月2日の投開票日に向け、各候補者は広い県土を駆け巡る。密着する担当記者が、人柄や趣味、得意分野など4人の横顔を紹介する。
■兵庫の宝物、掘り起こす/勝谷誠彦(かつや・まさひこ)氏(56) 無新
酒を好み、語らいを愛する。「兵庫をちょっと変えたろ、思てな」。5日夜、神戸・三宮の料理店。灘中学・高校(神戸市東灘区)の同級生に囲まれ、兵庫の地酒を手に、教育の充実や現職への多選批判など持論をぶった。「知事になっても、立ち飲み屋で意見を聞きます」
灘高は、生徒会長に2年がなるのが慣例だったが、1年で先輩を破って当選。成績は「どん底だった」というが、「政治、経済、文学の古典をひたすら読んだ。知事に必要なのは『教養と哲学と覚悟』」と屈託ない。
高い知名度が武器だが、歯に衣(きぬ)着せぬ発言が話題になった。11日、神戸での講演会では、聴衆から「テレビで見る印象はよくない」「意地悪」などの評も聞かれた。「本音を言わんと議論にならんでしょ。嫌われても言うことは言うし、反論は聞く。最後はノーサイド」。一転、公約発表会見では、記者の質問に「そこは不勉強なんで地元で話を聞かないと」と謙虚さも。
起床は午前2~4時。時事批評の日記公開を18年前から一日も欠かさない。元週刊文春記者。世界を回って戦争や革命を命懸けで取材した。「物書きとして腕一本で生きてきた。額に汗する県民の気持ちが分かる」
山口県の銘酒「獺祭(だっさい)」や静岡県の「富士宮やきそば」の魅力を伝え、人気に火を付けたと自負する。「兵庫も宝物がいっぱい。隠れた魅力を掘り起こすのに、僕ほどの適役はいない」
尼崎市出身。「この脳みそ、死んで火葬場で燃やすだけじゃもったいない。その前に兵庫に恩返しを」。選挙前、サングラスを眼鏡に変え、無頼派イメージの一新を図った。でも「本人だと気付いてくれないから」。“普段着”に戻り、舌戦に挑む。(小林伸哉)
■体力充実、衰えない情熱/井戸敏三(いど・としぞう)氏(71) 無現
4月下旬、ニュージーランドで開かれた生涯スポーツの国際大会「ワールドマスターズゲームズ(WMG)」の視察に訪れた水泳会場で、79歳の日本人女性に目を奪われた。年齢を感じさせない力強く、美しい泳ぎ。自由形800メートルで4位入賞を果たし、充実した表情を見せる姿に「自分も続かなきゃ」と刺激を受けた。
71歳。毎朝1時間「自己流」の体操を続けて10年以上になる。関西広域連合長も務め、日々過密なスケジュールだが、県庁内の移動はエレベーターを使わないなど体力づくりは欠かさない。高齢を懸念する声にも「トランプ大統領だって70歳超えているし。年齢の問題は人によって違うんじゃないの。具体的な年齢というよりやっぱり意欲でしょう」ときっぱり。
5期目への多選批判も渦巻くが、「1期ごとに課題は違う。新しい課題に対して、常に原点から出発してきた。情熱がある限り、回数の問題ではない」と語気を強める。
来賓で招かれた会合では、得意の短歌を披露することも。会場の反応はさまざまだが、短時間で時勢や会合の特徴を捉え、歌に詠み上げる創作力は見事なものだ。「県産銘酒を味わうのが楽しみ」。昨秋には、日本ソムリエ協会(東京)から日本酒・ワインの普及功績者に贈られる名誉ソムリエの称号も得た。昨年11月に初孫が誕生し、「おじいちゃん」になって初めての選挙戦となる。
5選を決めることができれば、任期を終える2カ月半前(2021年5月)に、アジアで初開催となるWMGが兵庫など関西で始まる。神戸市は水泳会場となる予定で、「私も挑戦してみようかな」と笑顔をのぞかせた。(斉藤正志)