現職と新人3人の争いとなった兵庫県知事選。7月2日の投開票日に向け、各候補者は広い県土を駆け巡る。密着する担当記者が、人柄や趣味、得意分野など4人の横顔を紹介する。
■疲弊する地域守りたい/津川知久(つがわ・ともひさ)氏(66) 無新=共産推薦
昨年11月に立候補を表明してから約7カ月。遊説で広い県土を駆け回ってきた。神戸に戻り、空いた時間に駆け込むのは、なじみの古書店だ。
「活字を追うと落ち着く。毎日とはいかないけどね」
昨年9月まで11年間、兵庫労連の議長を務めた。過去の知事選では、共産党などでつくる政治団体「憲法が輝く兵庫県政をつくる会」の候補者を支えた。
32団体約2万4千人のリーダー。厚い人望を知る周囲が放っておくはずがない。議長を退任直後、立候補を打診される。「私も選ぶ側だった。あらがうわけにはいかない」と決意した。
街頭でも集会でも、公約に掲げる最低賃金の引き上げや教育環境の充実などを訴える。「労働運動でも取り組んできた。やることは変わらない。人口減や高齢化で疲弊する地域を守る」
議長時代に培った人脈は何よりの強み。市町長や医療、商工関係者らと意見交換を重ねた。印象に残る言葉などを手帳に書きため、4冊目に入った。
「過疎地の病院では、看護師長が若手研修医に地域医療の実情を伝えている」「若者の定着へ県立高校の魅力づくりに心を砕く市長がいる」-。理想や絵空事ではない。現場の思いに裏打ちされた訴えに、熱がこもる。
元高校教諭らしく、授業で語りかけるように、ゆったりと言葉をつなぐ。「先生、頑張れ」。駆けつけた教え子の激励に、思わず言葉が詰まる一面も。
「生まれた場所で育ち、学び、働き、老いても暮らしていける。そんな当たり前の生活ができる地域、社会を実現したい」
「人生の集大成」と位置づける挑戦。好きなカラオケはしばらくお預けだが、街頭でマイクを握る姿は政治家のそれだ。(若林幹夫)
■政策本位の大切さ訴え/中川暢三(なかがわ・ちょうぞう)氏(61) 無新
大阪市長選に2度、東京、長野の知事選、さらには参院選への挑戦など、通算戦績は2勝6敗。立候補を表明しながら断念した選挙も4回ある。
「また立候補するの?」。周囲にあきれられても、法定得票数に及ばす、供託金を没収されても、「政策本位の大切さを有権者に訴えたい」と選挙に立つ“大義”にぶれはない。
「世のため人のために役立つ人になれ」。介護を続けた母はこう言い残し世を去った。当時は大手ゼネコン「鹿島建設」の社員。「将来に残る都市基盤整備を手掛けたい」と、東京・恵比寿ガーデンプレイスなど街の再開発にいそしんでいた。松下政経塾1期生の肩書も持ち、同期には野田佳彦元首相や逢沢一郎・自民党元幹事長代理などそうそうたる顔ぶれが並ぶ。
遺言を形にしようと、打って出たのが政治の道だった。成就したのが2005年の故郷加西市の市長選。助役(当時)や教育長の全国公募のほか、民間の経営手法を大胆に取り入れた改革路線を突き進んだが、「独断専行」との批判を招き、07年には2度の不信任決議で失職した。出直し選で再選されたが、3選は大差で阻まれた。
9度目となる今回も無所属無党派にこだわり、お金のかからない草の根活動に徹するつもりだ。昨年の都知事選と同様、ヘッドセットをつけて街頭に立つ。自撮り棒を駆使して動画を撮り、フェイスブックやツイッターに投稿。活動を知らせるスマートフォンアプリは自家製だ。
立候補会見で「選挙は大嫌い」とぶちまけた。あっけにとられる周囲をよそに言葉を重ねる。「(それ以上に)多選。進まない議会改革。借金を重ねる県政運営。黙って見過ごせない」(井上 駿)