政府は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」を巡り、別人の情報がひも付けされるミスが新たに1069件あったと発表した。既に判明している分と合わせ、計8400件を超えた。実施しているマイナカード総点検の中間報告として公表した。

 障害者手帳情報など行政の現場で不適切なひも付け処理が横行していた。とりわけ医療に関する誤情報は命に危険を及ぼす重大な事態につながりかねない。岸田文雄首相は原則として11月末までに個別データの点検を進めるよう指示したが、有効な再発防止策も示し、国民の不安を払拭しなければならない。

 首相は4日の記者会見で、2024年秋に現行の保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化する方針を当面は維持すると表明した。一方、マイナ保険証を持たない人全員に対し、保険証に代わる「資格確認書」を申請不要で発行し、最長5年使えるようにするとした。

 これでは現行の保険証とほとんど変わらず、そのまま残せばいい。なぜ廃止にこだわるのか。首相から納得のいく説明はなかった。

 資格確認書の対象者は全国民の半数近くに上る。総点検に加え、膨大なコストや事務作業が生じ、実務を担う自治体や保険者の混乱を招き、新たなミスを誘発しかねない。さらに無理を重ねるだけではないか。

 マイナンバーを巡るトラブルは今も相次いでいる。預貯金口座をひも付ける公金受取口座に別人の口座が登録されていた問題では、政府の個人情報保護委員会が行政指導を視野に、デジタル庁を立ち入り検査する事態となった。マイナ保険証を取得した人の中にも、病歴など個人情報の漏えいへの懸念が根強い。

 そもそもの混乱の発端は、政府の拙速かつ強硬な姿勢にある。

 カード取得は本来任意であるはずが、政府が昨年10月に突如打ち出した保険証との一本化方針は、「事実上の強制」と反発を招いた。

 首相は会見で「これまでの進め方に瑕疵(かし)があったとは考えていない」と述べた。しかしカード普及に躍起になるあまり、生煮えで進め、次々と浮かぶ課題に場当たり的に対応しているのが実情だ。首相の指導力欠如は深刻で、マイナンバー制度と政権への信頼は大きく揺らいだ。

 政府は、国民の根深い不信を真摯(しんし)に受け止め、丁寧に説明を尽くす必要がある。一度立ち止まり、来年秋の保険証廃止は撤回すべきだ。

 首相は会見で今後の延期判断に含みを持たせた。ただ小手先の対応を繰り返しても、国民の信頼は回復しまい。現実を直視し、方針転換をためらうべきではない。