北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記がロシア極東地域を訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行った。

 北朝鮮メディアは、安全保障分野などで「満足できる合意と見解の一致」に達したと伝えている。ロシア側もプーチン氏が「展望がある」と述べ、軍事面を中心にした関係強化に前向きの考えを示した。

 新型コロナウイルス対策で自国の出入国を規制して以降、金氏が初めての首脳外交に選んだのは、ウクライナ侵攻を続ける軍事大国、核保有国のロシアだった。

 ロシアが今後、核・ミサイル開発を進める北朝鮮を後押しすれば、東アジアだけでなく世界秩序を揺るがす新たな脅威になる。緊張を高める動きには断固反対する。日本政府は米国や韓国などと情報を共有し、動向を注視しなければならない。

 金氏は特別列車でロシアに入り、6日間滞在した。その間、宇宙基地や戦闘機工場を訪れるなど、軍事施設を中心に回ったようだ。

 首脳会談が行われた場所も宇宙基地の敷地内である。プーチン氏は、新型ロケットの組み立て施設や建設中の発射台をはじめ、最先端の現場に金氏を案内したという。

 軍事偵察衛星打ち上げの失敗を続けている北朝鮮にとって、宇宙基地はぜひとも足を運びたい場所だったに違いない。ロシア側は最新鋭の極超音速ミサイルも披露するなど異例の厚遇で応えた。

 衛星打ち上げや大陸間弾道ミサイルの完成に不可欠な技術をロシアが供与すれば、北朝鮮は米国や日本、韓国などに対してさらに挑戦的になるだろう。平和と安定が脅かされる事態は絶対に容認できない。

 一方、ロシアは北朝鮮に対してウクライナ侵攻で不足する弾薬の提供を求めたとされる。北朝鮮はロシアの民間軍事会社「ワグネル」に砲弾を売却しており、今回の訪ロは見返りに技術供与の約束を取り付けるのが目的だったとみられる。

 これに対してプーチン氏は金氏からの訪朝要請を受諾し、エネルギーや食料供給にも協力を約束した。

 看過できないのは、国連安全保障理事会常任理事国で拒否権を持つロシアが「北朝鮮制裁に同調しない」と表明したことだ。安保理の禁止決議を無視してロシアが北朝鮮にミサイル技術を供与し、武器取引を行えば、国連体制を無視したことになり、機能不全がより深刻化する。

 また、ロシアが北朝鮮の核保有を容認することで、核兵器保有を常任理事国5カ国に限定する核拡散防止条約(NPT)体制もこれまで以上に骨抜きになるだろう。ロシアは重い責任を自覚し、北朝鮮を利する軍事協力を思いとどまるべきだ。