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 裁判をやり直す再審制度の見直しを議論してきた法制審議会は、刑事訴訟法の改正要綱を平口洋法相に答申した。法務省は要綱に沿った改正法案を国会に提出する方針だ。

 見直しのきっかけは、静岡県の一家4人殺害事件で誤った死刑判決が確定した袴田巌さんの再審無罪までに44年もかかったことへの反省である。冤罪(えんざい)の被害者を早期に救済できる制度改正が欠かせない。

 しかし、要綱は当初の目的に逆行していると言わざるを得ず、袴田さんを救えなかった可能性すらある。日本弁護士連合会推薦の法制審委員や袴田さんの支援者らが「改悪だ」と強く反発するのは当然である。

 議論の最大の対立点は証拠開示の在り方だ。裁判所が検察に証拠開示を命じる規定を要綱に盛り込んだ点は評価できる。だが、開示の範囲を限定したのは容認できない。

 日弁連推薦の委員は証拠を幅広く開示するよう求めた。一方、検察出身の委員らは手続きの効率性の観点から反対した。その結果、再審請求の理由に関連する証拠のみ開示する規定となった。これでは裁判官の裁量次第で、従来は開示された証拠が出なくなる恐れがある。

 さらに問題なのは、関係者のプライバシーへの配慮を理由に、開示された証拠の再審手続き以外での使用を罰則付きで禁じた点だ。

 袴田さんの再審請求では犯行着衣とされるカラー写真が報道され、血痕の色などの矛盾点が明らかになった。再審請求審が非公開であることを踏まえると、無罪の立証に必要な証拠が報道機関や支援者に共有され、検証できる仕組みが欠かせない。

 再審請求に対し、裁判所が審理するかどうかを判断する「スクリーニング」を要綱が認めた点も救済の道を狭めかねず、見過ごせない。

 日弁連などが強く求めていた、裁判所の再審開始決定に対する検察の不服申し立て禁止も見送られた。袴田さんは2014年にいったん再審開始が決まったが、検察の即時抗告で取り消され、再審が始まるまでに9年もの歳月を要した。

 再審は無罪の明白な証拠が必要でハードルが高い。法制審では検察出身者らが確定判決の「安定性」にこだわったが、開始が決まれば再審の審理に委ねるのが合理的である。

 再審制度を巡っては、超党派の国会議員が幅広い情報開示や検察の不服申し立て禁止を盛り込んだ見直し案を提出していた。衆院解散により廃案になったが、国会の責任で再提出するか、議員案に沿った修正を法務省案に加えるべきだ。

 冤罪の被害者を長期にわたって苦しめる制度を、これ以上許容するわけにはいかない。