終戦から80年を迎える太平洋戦争の沖縄戦で命を落とした女子学徒や教員らを慰霊する「ひめゆりの塔」(沖縄県糸満市)の展示説明について、自民党の西田昌司参院議員(京都選挙区)が、那覇市で開催されたシンポジウムで「ひどい」「歴史を書き換えている」などと発言した。

 西田氏は「日本軍がどんどん入ってきて、ひめゆりの隊が死ぬことになった。そして米国が入ってきて、沖縄が解放されたと、そういう文脈で書いている」と述べた。

 しかし、ひめゆり平和祈念資料館は「現在にも過去にもこうした説明はしていない」とし、言われるような展示説明は塔の周辺にも存在しないと反論する。事実に基づかず、ひめゆりの塔という沖縄県民の大切な場所を冒瀆(ぼうとく)する行為である。

 玉城デニー知事は「沖縄戦の実相をゆがめる由々しき発言だ。認識錯誤も甚だしい」と厳しく批判した。沖縄戦の継承に関わってきた人たちや野党からも強い反発が出ている。西田氏は発言を撤回する考えはないとしているが、直ちに誤りを認めて撤回し、県民に謝罪すべきだ。

 ひめゆりの塔で慰霊するのは、日本軍に動員された沖縄師範学校女子部と県立第一高等女学校の生徒と教員だ。皇民化教育を受けた生徒らは傷病兵の看護などに従事し、投降せず米軍のガス弾などの犠牲になった。住民を巻き込む「軍民一体」の方針が県民の被害を甚大にした。展示は生存者らの証言に基づき、その経緯を克明に伝えている。西田氏は改めて現地に足を運び、沖縄戦を学ぶ必要がある。

 看過できないのは、西田氏が現地を訪れたのが「何十年か前」で、後日の会見で「ずいぶん昔のことで細かい記憶はないが、全体的な印象」と弁明した点だ。あいまいな記憶のまま、誤った認識を堂々と語る姿勢は理解し難い。

 西田氏は「地上戦の解釈を含めてかなりむちゃくちゃな教育のされ方をしている」とも語った。沖縄では悲劇を繰り返さないために体験者の証言に耳を傾け、平和教育を充実させてきた。県外から訪れる修学旅行生らの平和学習にも生かしてきた。戦後積み重ねてきた教育を踏みにじる暴言というほかない。

 シンポジウムは憲法記念日の3日、神道政治連盟県本部などが主催し、自民県連が共催した。発言には県連も疑問を呈し、県議会の自民党を含む各会派が抗議決議に向けて調整を進めている。同党の沖縄振興調査会は「われわれの認識とは全く違う一議員の発言」と強調するが、それで幕引きとはならない。自民党としての見解表明と西田氏への厳しい対応が求められる。