文書問題に端を発する兵庫県政の混乱については、報道や交流サイト(SNS)を通じていやでも目に飛び込んでくるため深く案じている。第三者委員会の報告書を受けて終息に向かうことを期待したが現状そうはなっていない。
それどころか、文書を作成した元県民局長の私的情報が外部に漏れた疑惑を調査した第三者委員会の報告書が公表された5月27日以降、問題は新たなフェーズに入った。前総務部長が知事と当時の副知事の指示を受けて情報を漏えいした可能性があるとの報告書に対し、知事がこれを真っ向から否定しているためだ。
私自身は現場を取材しているわけではないため動向を見守るしかないが、気になったのは、第三者委員会とは何かということだ。企業や組織で不祥事やコンプライアンス違反が起きた場合、その原因究明や再発防止策の提言を目的として設置される独立した外部の専門家による調査機関を指すが、調査結果を依頼主が認めなければ報告書は宙に浮く。本件のように「一つの見解」で片付けられてしまえば、何のための調査かと真のステークホルダーである県民の疑問は増すばかりだろう。
■再生に欠かせない自浄能力
第三者委員会を分析した、八田進二著『「第三者委員会」の欺瞞(ぎまん)』(2020)という本がある。「第三者委員会報告書格付け委員会」の委員で会計学者の著者によれば、弁護士が企業や組織から報酬を受けて調査する現在の第三者委は日本独自のものだという。法的根拠や拘束力はなく、報酬は非公表。依頼主の企業や組織が報告書を全面的に受け入れるケースは少なく、大半の第三者委は真相究明どころか、関与を疑われた人々が身の潔白を証明するための「禊(みそ)ぎのツール」ではないかとの疑念もあったという。
これを受けて、2010年に策定されたのが日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」で、策定に携わったメンバーを中心に報告書の格付け委員会が設立された。ホームページに公開された格付け表を見ると、玉石混交であることは一目瞭然だ。日本オリンピック委員会や関西電力、朝日新聞など社会的に話題となった案件が中心なので、直近のフジテレビや兵庫県の一連の報告書もいずれ評価されるのだろう。
そもそも第三者委の起源は1997年、山一證券の経営破綻にさかのぼり、元役員に外部の弁護士2人が加わった社内調査委員会が原型とされる。社内調査なら身内に甘いかというとそうではなく、損失隠しに対する徹底した事実関係の調査を行い、企業の自浄能力を示した点が評価された。
JR福知山線脱線事故を取材したノンフィクション、松本創の『軌道』や、柳田邦男の『それでも人生にYesと言うために』を読むと、被害者遺族の懸命な呼びかけで、彼らとJR西日本が事故の原因究明と再発防止のための共同検証を行ったのも、前例のない画期的な検証手法だったといえる。
すなわち、現在もっぱら行われている弁護士のみの第三者委でなくとも、委員選任プロセスの透明性や独立性、専門性を担保した上で、ステークホルダー(株主、消費者、取引先、従業員、債権者、地域住民など)に説明責任を果たし、再発防止の提言をすることはできるはずなのだ。自浄能力を示せず混乱を収拾できないでいる状態こそ、企業や組織の長の責任が問われるのである。
ところで、八田氏の本に気になる指摘があった。格付け委員会が設立された背景の一つに、本来メディアが担うはずの真相究明が十分行われないことや、報告書が出ても、メディアが公正な評価を行わない(行えない)ことがあったというのである。メディアで働く一人として内心忸怩(じくじ)たる思いだ。というのも、組織の不祥事を第三者が検証するきっかけとなったのはメディア自身だったからだ。
86年に起きた「サンデー毎日」誤報事件である。日本で働いていたフィリピンの女性がエイズに感染して強制送還されたことを受け、編集部が現地に外部のライターを派遣したところ本人の取材に成功。写真付きで報じると、これがまったくの捏造(ねつぞう)だった。
過熱報道と人権意識の低さが批判される中、米国留学中にワシントン・ポストの大誤報(ジャネット・クック事件)と第三者による検証プロセスを学んでいた当時の副編集長・鳥越俊太郎は、クック事件をよく知る柳田邦男に検証を一任。編集部や当のライターを調査対象とした検証記事を執筆してもらい、紙面で発表した。鳥越の手記「ニュースの職人」(2001)によると、本邦初のこの試みによって誤報の原因や背景が明らかになり、「サンデー毎日」は再生を果たしたという。これを機に、メディア業界では自主的な倫理綱領やガイドラインの策定、審査機関の設置が進んだ。
兵庫県問題では大手メディアに対する批判もある。自らを省みて報道を検証し、事態を前進させてほしい。SNSやネットメディアは共に真相究明を目指すライバルだと思う。いたずらに対立構図で語ることが何を利するのかは明白である。
(さいしょう・はづき=ノンフィクションライター)























