生きるのヘタ会?×神戸新聞

投稿コーナー「私も生きヘタ?」

神戸在住の小説家石田香織さんに生きづらさを抱える人へのメッセージを聞きました

 厚生労働省のホームページで、「100人に約6人がかかる病気」と紹介されている「うつ病」。神戸市在住の小説家で、「きょうの日は、さようなら」(河出書房新社)などの著書がある石田香織さん(46)も会社員だった頃、うつ病と診断されました。つらいことがあった時、まず「私がダメだから」と考え、頑張り続けてしまう癖があるという石田さん。生きづらさを抱える人へのメッセージも聞きました。

 -うつ病になったのは?

 「今から8年ほど前です。保険の会社で働くシングルマザーで、下の子が小学1年、上の子が5年でした。理不尽に怒鳴るパワハラの上司がいて、数字に追われて、お客さんとのトラブルもあって…。耐えて、耐えて仕事をしているうち、食べることも、眠ることもできなくなりました」

 「ゼリーだけ口にして、げっそり痩せても、会社に行っていました。でも、年明けの朝礼で、上司が数字の話をしているのを聞きながら、窓の外の山や空、学生が楽しそうに歩いているのを見ていたら、『私、何やってるんやろ…』と、涙が止まらなくなりました」

 「泣きながらパソコンや営業の電話をしていると、病院に行くように言われ、すぐにドクターストップで休職が決まりました。『いつまで休めばいいですか?』と医師に聞いたら、『いつとか決められない。あなた、そんな状態じゃないよ』と言われました」

 -ずっと、耐えていたんですね。

 「今思えば、会社をやめる機会は、何度かあったんです。でも、そのつど『私がダメだから』と考え、もっと頑張って…。自分が自分を許さないんです。最後、体が症状を出して、私を守ってくれたんだと思います。結婚もそうでした。夫はとても不安定な人でしたが、結局、破綻するまで結婚生活を10年続けました」

 「そもそも私は、子ども時代の家庭環境が複雑で、父に叩かれていました。何をしても怒られ、自分は価値がないと思い、つらいことは『私のせい』と考えていました。中学校からは不登校でした」

 -支えになったことは?

 「人間はダメな所が魅力や、と教えてくれたのは、師匠の森田雄三(演出家、故人)です。10代後半、阪神・淡路大震災の翌年に神戸で開かれた演劇のワークショップで出会いました。その後、演劇から離れても、つながりは続き、うつ病になって寝てばかりだった時は『とにかく絶望するな。石田、笑えや』と言われました。笑い飛ばせ、という意味だと思います。そして、書け、と」

 「私にとって小説を書くことは、生きることと向き合うことでした。人間のどうしようもなさや苦しみを再確認し、それでいいと、ふに落ちるようになりました。書きながら泣いて、つらかった自分が浄化されるようでした。師匠に言われるまで、自分に小説が書けると思ってなかったけど、心を表現する居場所を見つけ、落ち着きました」

 -今、伝えたいことは?

 「うつになる人って、『自分がダメ』『頑張れていない』と思って、頑張ってしまう。人と比べて、『これじゃダメ』と思う。でもダメでいい。うつでいいんです。うつになったら、休めばいい。頑張ったり、耐えたりした自分には『よくやったね』と言って、自分を許し、休ませてあげる。そこからスタートすればいいと思います」

 「師匠はよく言っていました。人のいびつさがすてきなんやって。生きていると、つらいことや嫌なことがあって、それを突破しようとして、いびつになる。それは懸命に生きた証しやから、その人の魅力なんやと」

【いしだ・かおり】1976年加古川市生まれ。96年から演出家の故・森田雄三氏に創作を師事。2017年「きょうの日は、さようなら」(河出書房新社)でデビュー。著書に「哲司、あんたのような人間を世の中ではクズと呼ぶんやで」(同)、「うめももさくら」(朝日新聞出版)など。西宮市で、障害がある人や生きづらさを抱えた人らが過ごす地域活動支援センター「すたじおごろん香櫨園」を運営している。




 

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