職員の大庭英樹の声がリビングに響いた。
「自分がどれだけ大変なことをしたか、分かってますか」「大切な日だった人もいる。みんな優しいから怒らないけど、本当はむちゃくちゃ怒ってます」
昨年12月25日、小学2年の大雅が自室で叱られていた。部屋の扉が少し開いており、大庭の声は筒抜けに。リビングにいた子どもたちが顔を見合わせる。「大庭兄(にい)、怒るとめっちゃ怖いからな」。小学1年の蒼空(そら)がつぶやいた。
この日午前1時ごろ、それぞれの部屋にクリスマスプレゼントが置かれた。午前2時ごろ、プレゼントに気付いた大雅が大騒ぎ。次々と他の子どもの部屋に入り、起こしてしまった。ユニットには就職の面接を控えた子もいた。
「今日は言われたことをよく考えて生活してください」。そう言って大庭は部屋を出た。リビングの子どもたちには「大雅には言っといたから、これ以上怒らんといてあげてな」とも。
子どもがいない所で、大庭が明かす。「叱る時はシミュレーションを繰り返し、感情的になることはないです。頭の中はめちゃくちゃ冷静で、恐怖を与えないように気をつけてます」。部屋の扉を少し開けていたのは「透明性」のため。中で何が行われているか、他の子たちにも分かるようにしている。
強く言ったのには、もう一つ理由がある。他人が一緒に生活をする学園では、それぞれが安心して暮らせることが重要。「人の部屋に入らない」というのは、より厳しくしている。
大目玉を食らい部屋にこもったままの大雅に、大庭が声を掛けた。「ずっと部屋にいなさいと言ったわけじゃないよ」
しばらくして、ばつが悪そうに出てきた。(敬称略、子どもは仮名)
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