ランドセルを背負った子どもたちが、真っ白な息を吐く。12月の朝。気温は氷点下となり、尼学から道場小学校への通学路は霜で覆われた。
学校までは約1・5キロ。尼学の小学生12人は2班に分かれて登校する。上級生の2人が1年の鈴音を先導する。「メタルスライムが出てきてな…」。最後尾の男児2人はゲームの話に夢中だ。
「やめてっ」。ときおり鈴音が3年の大輝にちょっかいを出され、声を上げる。すぐに上級生が間に入って取りなした。すれ違う住民には「おはようございます」とあいさつ。約30分歩くと到着だ。
道場小は児童133人。1学年1クラスの小規模校だ。教諭の西藤裕介(33)は「学園は昔からここにあり、地域に根付いている。児童や保護者にとっても当たり前の存在です」と話す。道場小に来て7年目。担任を務めた後、今は児童支援担当として子どもたちを見守る。
育ってきた環境もあり、尼学児童の多くは勉強が苦手。でも、大きな行事や好きなことを見つけたとき、生き生きとした姿を見せる。
国語が苦手だった男の子が、一生懸命せりふを覚えて応援団長として活躍した。転入当初は暗い顔をしていた女の子は、感情表現豊かに劇を披露した。絵を描くことで自信を持った子もいる。他の子たちと同じ土俵で競えるものは、勉強以外にもある。「そういうものに出合えると、子どもたちは大きく成長する。本来持っている力を発揮するんです」
そんな西藤が驚かされることがある。卒業文集だ。尼学の子は児童相談所と定期的に面談があり、自分の置かれた状況を客観的に見つめることになる。「6年生って、こんなに深い文章を書けたっけ」。ただただ、すごいと思う。
今春、卒業する少女もそうだった。(敬称略、子どもは仮名)
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