クリスマス直前の夜。職員がユニットの扉を肩で押し開ける。両手にはてんこ盛りの大皿。「うぉ、すげえ」。食べ盛りの男の子たちが叫ぶ。
ローストビーフに鶏のチューリップ揚げ、クリスマスツリー状のポテトサラダ。調理師が朝から準備した。尼学では約40人の子どもが、6人単位のユニットで生活する。この日は年に1度のユニットパーティーだ。
にぎりずし、ハンバーガー、ピザも並んだ。みんなで要望を話し合い、職員が買ってきた。尼学の食事はおいしい。でも献立は一律。食卓に少しだけ、わがままが追加された。
「いただきますっ」。見る見る肉が消えていく。しばらくすると、「腹いっぱい。もう無理」。中学生がリビングに倒れ込んだ。部屋が充実感に満ちていた。
毎年、この日あたりから、施設が徐々に静かになる。一時帰宅する子、里親の家に行く子。残るのは4分の3ほどだ。
副園長の鈴木まやが振り返る。「20年ほど前はほとんどの子が学園の外で過ごしてました」。虐待による入所はほとんどなく、親や親戚が迎えに来た。誰もいないため、学園を閉めた正月もあった。
今は違う。親が子との関係を築けていなかったり、困窮のため正月も働かざるを得なかったりで、帰せないケースが増えた。頼れる親戚もない。外で過ごす子と残る子。年末年始は、複雑な気持ちが交錯する。
元旦。柔らかな日差しがユニットに注いでいた。子どもたちはとりためたアニメを見たり、ゲームをしたり。
「お昼やで」。職員も少なく、この日は全員、ホールで食事。子どもたちがシリアルや骨付きチキンを自分の皿に移す。おせちの残った重箱が、非日常を映し出していた。(敬称略)
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