「そらちゃーん。早く起きー」
午前7時、朝ご飯の支度をしながら職員の大庭英樹が子どもたちを起こしていく。小学1年の蒼空(そら)は、なかなか布団から出ない。大庭は2度目の声を掛ける時、小さな手をさすりながら起こした。
パジャマから着替えた蒼空が、眠い目をこすってテーブルに着く。この日の朝食はご飯、みそ汁、卵焼き、ゴマあえ。向かいには1年上の大雅が座っている。
「大縄跳び、俺は100回跳べるで」「俺は200回」。2人はおしゃべりに夢中でご飯を運ぶ手が止まりがち。それでもしばらくすると、大雅が完食した。
食の細い蒼空。「大庭兄(にい)、もういい?」とお茶わんを見せるが、大庭は首を横に振る。残ったご飯を見て蒼空は「まだやな」とにやり。再び口に運び出した。
蒼空たちが通う道場小学校へは、学園の子どもで集団登校する。集合時間は7時35分。7時半すぎ、「もう時間やでー」と大庭の声が響くと、蒼空はランドセルを持って飛び出した。お茶わんには、少しだけご飯が残っていた。
蒼空は幼児の時に学園に来て、小学1年から今のユニットで暮らす。人懐っこい性格で、甘え上手。ひょうきん者で、ユニットでもかわいがられている。
しかし当初は大庭が抱きしめようとすると、体をすぼめた。抱っこをしても体や顔を離した。「大人が怖くないと、私たちが教えてあげないといけない。だから毎日、手をさすりながら起こすんです」と大庭。
大雅も同じ。寝る前と起こす時、必ずぎゅっと抱きしめる。嫌がるそぶりを見せるが、口元は笑っている。「1年かかって、ようやくできるようになった」
大人たちの愛情を受け、子どもたちは少しずつ成長している。(敬称略、子どもは仮名)
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