ユニットのカレンダーを見て、職員がつぶやいた。「誰が書いたんやろ。カレンダーには書かんとってほしかったな」
友希の誕生日に「父 来園」とある。親と離れて暮らす尼学の子。面会などは児童相談所の許可のもと、保護者と職員が相談して決めており、友希も誕生日を父と外で祝う予定だった。だが、職員の顔はさえない。「約束をしても、来ないことがある。がっかりさせたくない」
父は来なかった。夕食後、ユニットの1人が大きな声で言った。「友希のお祝いしよや!」。みんなが集まる。テーブルには、学園が用意した誕生日ケーキ。友希には名前入りのチョコプレートを添え、ひときわ大きく切り分けた。この日、口数の少なかった友希。照れくさそうに笑い、ケーキを平らげた。
副園長の鈴木まやは「突然来られなくなるのはよくあること。友希君が特別ではないです」と話す。経済的困窮や体調が理由でも、引け目を感じてか連絡すらないことがあるという。
友希は幼児から尼学にいる。アルバムを開くと、たくさんの思い出がとじてあった。おもちゃ王国、海水浴、尼学での行事…。幼いころの友希が、満面の笑みで写る。周りにいるのは、尼学の子や職員。父親との写真は数枚だけだった。
親が来ないケースがある一方、一時帰宅を拒む子もいる。小学生の啓太は、帰宅当日に泣いて嫌がった。乳児院から尼学に来て、普段は大勢の子と暮らす。「家に帰っても、母親とどう過ごしていいか分からない」と鈴木。1週間の予定が2日で戻ってきた子もいる。親が「もう無理」と音を上げることもある。
ただ、多くの子が思っている。安心して一緒に過ごせる親であったらいいのに。普通の家の子でいたい、と。(敬称略、子どもは仮名)
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