隣に座った女性が化粧をし初めて怪訝な表情を浮かべる ※画像はAIで生成したイメージです。
隣に座った女性が化粧をし初めて怪訝な表情を浮かべる ※画像はAIで生成したイメージです。

30代女性のAさんが電車に乗っていたところ、隣に座っていたBさんがおもむろに化粧を始めました。AさんはこのままBさんの隣にいると、服を汚されるかもしれないと考えます。しかし周りを見渡しましたが、空席はなくて席移動はできないため、仕方なく席に座り続けていました。

そうこうしているうちに、Bさんの化粧は進んでいきます。基礎化粧だけでなく、ファンデーションやアイラインなど、自宅にいるかのようにメイクを続けます。

すると、電車が急ブレーキで停車したタイミングでBさんが手を滑らし、持っていたマスカラを落としてしまいます。そして不運なことに、そのマスカラはAさんの元に落ち、お気に入りのジャケットを黒く汚してしまったのです。

このような場合、Aさんはクリーニング代を請求できるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。

■法的責任はあるものの実際は示談で解決

ー電車内で化粧をして他人の服を汚す行為は、法的にどのような責任を問われますか?

電車内で化粧をして他人の服を汚す行為は、民法第709条の「不法行為」に該当します。揺れる電車内で化粧を行えば他人の所持品を汚す可能性があることは十分に予見でき、それを回避すべき注意義務があるため、過失が認められます。

なお、「過失傷害罪」は人の身体を傷つけた場合に成立するため、服の汚れ(器物損壊)については、過失による場合は刑事罰の対象にはなりません。あくまで民事上の損害賠償責任を問う形になります。

ークリーニング代だけでなく、そのほかの損害や慰謝料なども請求できますか?

基本的には「原状回復」に必要な費用、つまりクリーニング代の請求が認められます。もしシミが取れずジャケットとしての価値を失った場合は、購入価格から使用期間を差し引いた「時価」相当額を請求できる可能性もあります。

一方、その他の損失や慰謝料については因果関係の証明が困難です。その汚れが直接の原因で契約が破棄されたことを立証できない限り、認められるケースは稀でしょう。

ー「電車が揺れたから不可抗力だ」という言い分は通用しますか?

仮にBさんが「電車が揺れたから不可抗力だ」と主張したとしても、法的には通用しません。電車が揺れることは当然予測される事態であり、そのような不安定な場所でわざわざ化粧というリスクのある行動を選択したこと自体に過失があるとみなされます。

ただし、実際にこのようなケースで損害賠償を請求するために裁判をおこなうことはほとんどありません。示談で解決することが大半です。

万が一、Aさんのように服を汚されてしまった場合は、泣き寝入りせず、その場で連絡先を交換しましょう。そのうえで、実際にかかったクリーニング代を記録するなどして、客観的な損害額を明確にしておくことが大切です。

◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人はいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)