3代目となる盲導犬・ステラが今の相棒(写真提供=セアまり。以下同)
3代目となる盲導犬・ステラが今の相棒(写真提供=セアまり。以下同)

 4月21日から28日、京王プラザホテル(東京都新宿区)にて、視覚障害のある女性、セアまりさん(本名・浅野麻里さん=75歳)の作品展『見えない私が描く世界』が開催されます。セアまりさんの人生を豊かにしてくれた3匹の盲導犬をはじめ、かけがえのない動物たちとの出会いと別れを描いた27枚の絵が展示されるのですが、もう一つ画期的なのは、「シャルル・ボネ症候群」の彼女が見ている“幻視”を、一般の人が疑似体験できるという企画。

 シャルル・ボネ症候群とは、何らかの原因で低視力になった人が、実際には存在しない人間や動物、建物や風景など幻視を見る症状のこと。セアまりさんは約25年前から見るようになったと言います。

「現実世界の前に、幾何学模様や動く花々、そそり立つ建物、徐々に動物に変化していく人間の顔などが、何層にも現れては消えていきます」

 2020年、セアまりさんは目の前に広がる幻視の世界を絵で表現し、東京で展示会を開きました。2022年には神戸でも。すでに「針の穴ほど」の視野しか残っておらず、光と影、白と黒のコントラストを感じられる程度でしたが、周囲の人たちのサポートを受けながら13枚の作品を完成。「シャルル・ボネ症候群について広く知ってほしい。同じ症状に悩みながら病名さえ知らない方たちにメッセージを届けたい」という強い思いから実現しました。

■シャルル・ボネ症候群を疑似体験

 幻視の世界を、ほぼ視力を失った人が絵にして“可視化”する--それがどれほど大変で、どれほど画期的なことだったかは想像に難くありません。ただ、セアまりさんは当時から「動く形で表現したい」「シャルル・ボネ症候群の本当の姿をお見せしたい」と思っていたそうです。

「私は、ただ見えないという視覚障害者ではありません。光や映像が絶えず現れ、説明しきれないほど多くのものが目の前でうごめいています。気が狂いそうになるほどのその状態を伝えるには、動くもので疑似体験していただくしかないと考えました」

 今回も、当初は以前描いた静止画をそのまま展示する予定でしたが、セアまりさんの強い希望で“動かす”ことに。静止画制作から携わってくれているサポートメンバーを通じて映像クリエーターに幻視の世界を伝え、その映像クリエーターが元の静止画に動きをつけて映像として仕上げていく。出来上がった映像はサポートメンバーがまた言葉にしてセアまりさんに伝え、話し合いを重ねて何度も修正を繰り返しました。

「私の幻視の中で象徴的なものの一つに、人の顔がゆっくりと、ぐにゃりと、時にはグロテスクに感じるほど変形していくものがあります。この感覚を共有するため、多くの人の目を借りながら、言葉を尽くして伝えていきました」

 こうしたやりとりだけでも大変そうなのに、さらにやっかいだったのは、映像確認中もセアまりさんの目の前には新たなシャルル・ボネ症候群の像が現れるということでした。

「今見ているものがどちらなのか分からなくなり、思わず笑ってしまうこともありました」

 強い信念を持って取り組んでいた彼女だから「笑えた」のであって、納得できるものを完成させるまでには、きっと想像を絶する苦労があったはず。最終的には180センチ四方の透けたオーガンジーの布4枚に映像を映し出すことで、実際に見ている幻視の世界を表現することに成功しました。

「私の目の前に現れる幻視は透明であり、まったく同じものを作ることは不可能です。それでも、大きな心で私の目となり、一緒に作り上げてくれた方たちのおかげで、実際の像に限りなく近いものができたと感じています」

 静止画発表から5年以上がたち、セアまりさんは視力を完全に失いました。今回の展示会の主たる作品である動物たちの絵を描く中で、徐々に失われていったそうです。“動く”シャルル・ボネ症候群を作る段階では、もう見えていませんでした。それでも、どうしてもやり遂げたかった。そこには、セアまりさんの“覚悟”がうかがえます。(次の記事へつづく)

 『セアまり作品展 見えない私が描く世界』

期間:2026年4月21日(火)~28日(火)
時間:10:00~17:00(最終日~15:00)
会場:京王プラザホテル本館3階ロビーギャラリー(東京都新宿区西新宿2-2-1)

※見えない方、見えにくい方にも作品を理解していただけるよう、作品にはすべて音声ガイドが付いています

作者トークイベント:4月21日(火)・26日(日)、各日13:00~、各日20名限定、要予約
※予約は4月14日・15日10:00~17:00に京王プラザホテルロビーギャラリーまで電話にて(TEL 03-5322-8061)

(まいどなニュース特約・岡部 充代)