戦後75年企画 沖縄戦描く映画「島守の塔」
■若い世代へ「命どぅ宝」
6月26日、那覇市の奥武山(おうのやま)公園。神戸出身で沖縄県最後の官選知事、島田叡(あきら)の功績をたたえる顕彰碑の除幕式があった。70年前、島田が消息を絶ったとされる日だ。
「島田さんの縁で友愛提携を結ぶ兵庫と沖縄の絆の証しです」
署名や募金活動などで建立に尽力した嘉数昇明(かかずのりあき)(73)=那覇市=は感慨深げに碑を見上げた。式典には、井戸敏三兵庫県知事、久元喜造神戸市長ら県民代表団も参加した。
碑の建立に合わせ、学生野球でも活躍した島田にちなみ、同公園の多目的広場が「兵庫・沖縄友愛グラウンド」と命名された。
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嘉数は、県議を16年務め、副知事も歴任した。2年前には、県職員の戦没者を追悼する「島守の会」顧問に就いた。長年、沖縄と本土との温度差を肌で感じてきた一人だ。
「戦後、沖縄は米国統治下に残された。戦争で本土防衛の捨て石にされ、戦後も見放されたとみる人は多い」
本土復帰後も国土面積の0・6%にすぎない沖縄に在日米軍基地の約74%が集中する。名護市辺野古では、新たな基地建設が進む。
嘉数は、顕彰碑建立の意義を強調する。
「島田さんは、沖縄県民を同胞として生命保護に努められた。責任感の強い方が知事でなければ、住民の被害はもっと大きくなっていたのではないか」
そして、島田の故郷・兵庫が遺志を継いでいることに感謝する。1964(昭和39)年、島田ら県職員をまつる「島守の塔」(糸満市摩文仁(まぶに))の近くに、他県に先駆け、沖縄戦で亡くなった兵庫県出身者を慰霊する「のじぎくの塔」が完成。約24万人の戦没者を刻銘する「平和の礎(いしじ)」には島田の名も兵庫県出身者として刻まれる。
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戦後70年の今年12月、島田の母校・兵庫高校(旧制神戸二中)は修学旅行としては初めて沖縄を訪れる。
連載にも登場した元少年警察官の上原徹(86)=浦添市=が、生徒たちに戦争体験を話す予定だ。上原は数年前まで、多くの知人を失った悔恨から、語ることを避けてきた。
「島田さんは、住民が戦争に巻き込まれることを分かっていた。だから、自分が知事になって守ろうとしたのだろう。『命(ぬち)どぅ宝』(命こそ宝)の精神を、若い世代に伝えたい」
戦争体験が風化すれば、平和は遠ざかっていく。死を覚悟して赴任し、住民保護に尽くした「島守」の残したものを無駄にしてはならない。=敬称略=
(津谷治英)
=おわり=
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