戦後75年企画 沖縄戦描く映画「島守の塔」
■戦争の悲惨さ 自ら考える
桜が散り始めた4月上旬、那覇高校の同窓会館に設けられた「第1回島守忌(き)俳句大会」事務局に1本の電話が入った。沖縄への修学旅行を控えた加古川市の別府中学校からだった。島田叡(あきら)・元沖縄県知事や沖縄戦について事前学習に取り組んでおり、その一環として俳句大会に3年生全員で参加したいとの申し出だった。
島田の母校・兵庫高校(神戸市長田区)に投句を呼びかけたこともあり、「一般」と「高校生」の部を設けてはいた。実行委事務局の名嘉山興武(なかやまおきたけ)(72)は「170人もの中学生が参加するのは予想外。うれしい誤算だった」と喜び、特別枠を設けた。
別府中は1999(平成11)年、加古川市の中学校で初めて沖縄への修学旅行を行った。平和教育に力を入れ、現在の3年生は校外学習で原爆の被災地・広島も訪ねた。沖縄戦は道徳、総合学習で取り組む。
授業では、火炎放射器が洞窟に放たれる生々しい写真を教材に使い、悲惨な地上戦の真実を伝えた。道徳の副読本「心かがやく」に採用されている作家陳舜臣(ちんしゅんしん)の文章も朗読。島田をたたえる内容で、沖縄県民の生命を第一に考えた足跡をつづる。学年主任の太田垣久敬(ひさたか)(58)は「命の尊さと向き合う最適の教材。私も何度か読み返した」。
そんな中、3年生の担任教諭の一人が俳句大会を知り、参加を提案。それまでは知識を伝えることに力を入れてきたが、太田垣は「戦争について自分で考え、短い文で表現する機会になる」と賛成した。
送った句は学習成果を物語っていた。
「永遠に 戦争(つみ)は起こさぬ 島守忌」(3年・関口太智)
太田垣は生徒の作品に「永遠」の言葉が度々出てくることに注目。「純粋な表現で、生涯心に刻む誓いの気持ちが伝わった」
5月26日、別府中生は沖縄県糸満市の摩文仁(まぶに)の丘を訪ね、その思いをかつての戦地に響かせた。島田ら県職員を追悼する島守の塔に手を合わせた後、犠牲者の名を刻む平和の礎(いしじ)の前で代表が言葉を読み上げた。
「戦争の悲惨さを後世に語り継いでいきます」
住民を思い続けた島田。その願いは70年を越え、故郷の若者の心にしっかり刻み込まれている。
=敬称略=
(津谷治英)
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