「雪まつり」を前にした札幌は、記録的な豪雪に見舞われた。除排雪しても道路わきに残る雪の山で渋滞が続いた。
大寒波が襲った一月十日午前七時半、札幌市長は、北海道知事を通じて陸上自衛隊第11師団に派遣を要請した。
積雪は九一センチに達し、都心と郊外にある市立札幌病院を結ぶ幹線の西十三丁目線がふさがれた。排雪用トラックなど市の準備は間に合わない。「基幹病院への道が遮断されては、市民の生命にかかわる」と、市長は判断した。
災害対策基本法の改正で、市町村長に、知事を通じて自衛隊に出動要請する権限が与えられた。「改正基本法が最大限に生かされた最初の例」と、国土庁防災企画課は話す。
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同法の改正は、先の臨時国会で、全会一致で成立している。政府案と新進党案の両案が提出され、新進党案を大幅に取り入れた修正案の形で決着した。
「従来なら多数決で政府案が採決されただろう。当時の対応は的確だったかというと、そうではない。与野党が対立を超え、ぎりぎりの折衝の結果だ」と、新進党の小坂憲次・衆院災害対策特別委員会理事は言う。
自衛隊の派遣要請に関する市町村長の権限のほか、改正のポイントは、中央の対応である。
国務大臣を本部長とする「非常災害対策本部」の設置に「閣議は不要」とした。阪神大震災当時、同本部の設置は、発生から四時間余りたった午前十時の閣議で決まり、対応の遅さが批判を浴びた。
物価統制など強力な権限を持ち、基本法上の最上位組織に位置づけられる「緊急災害対策本部」(本部長=首相)の設置要件も変わった。
震災三日後の一月二十日、村山首相は衆院本会議で、「緊急災害対策本部」を設置する考えを示した。が、その日のうちに官房長官が撤回した。設置に必要とされた「緊急事態の布告」がネックになった。
法改正で布告要件は外され、本部員には閣僚のほか、警察庁長官など指定行政機関の長が加えられた。
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改正基本法を元に、霞が関で防災業務計画、自治体で地域防災計画改定などの作業が進む。
しかし、「災害時に県と市町村がどんな指揮系統になるか、基本法はあいまいなままだ」と貝原兵庫県知事は指摘する。
自治体同士の関係、ライフラインを握るガス、電気、電話会社と自治体の関係など、地方でどうシステムをつくるか、詰めた議論がない、と知事は言う。
(1)初動時の情報収集体制
(2)警察・消防・自衛隊の協力体制
(3)情報伝達指揮系統-。
新進党が実施した全国自治体アンケートで、首長が強化すべき項目に挙げたのは、この順だった。
十二月、参院災害対策特別委員会は、法改正の採決に当たって、付帯決議をしている。
「被災者の生活支援のため、全国自治体が一定額を拠出する災害相互支援基金創設を早急に検討すること」。首相の私的諮問機関・防災問題懇談会の提言にも盛り込まれた課題だが、検討は全国知事会にゲタを預けたまま。知事会の議論は入り口にとどまっている。
通常国会が、二十二日始まった。施政方針演説で、橋本首相は「大震災を貴重な教訓に」として、総合的な災害対策の充実、危機管理体制強化に取り組む決意を述べた。
残された課題にどう道筋をつけるか。教訓を今に生かす論議はまだ不十分に見える。
(太田貞夫、鉱隆志、松岡健、柴田大造、長沼隆之、宮田一裕)=第8部おわり=
1996/1/25