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(1)行政の姿勢 学者は戒め 断層地図になお空白
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「千年は地震こない」-本当か
 「被害の帯」は、市街地から六甲山に向け、真っすぐに延びていた。

 一月七日の日曜日。神戸市東灘区の高台の住宅地で二人の学者が、座り込み地面の亀裂を調べていた。

 大阪市立大学の平野昌繁教授と神戸大学の波田重煕教授。「右に約三センチずれている。地滑りではなく、地震動だ」。亀裂の方向やずれの程度、周囲の状況を詳しくメモしていく。

 神戸市東灘区で、震災被害を軒並み受けたのは阪急神戸線から南である。北へ足を延ばすと、被害は六甲を斜めに貫く五助橋断層に沿った細い帯になる。高台に、更地や倒壊家屋が連なる光景は、既成市街地の激甚被災地を連想させる。

 亀裂調査は震災以来、百日を超えた。平野教授は説明した。

 「市街地直下の断層は正体がつかみにくいが、痕跡を残した地表の観察で、断層位置が推定できる」

 活断層は地殻の古傷だ。地中のゆがみエネルギーが集中し、直下型地震を起こす。ほかで起きた地震でも振動は大きくなる。しかし、神戸市街地の断層地図は、いまだに「空白」である。

 波田教授は「活断層は都市のウイークポイント。地表変異の記録が、都市防災につながる」と強調する。

    ◆

 十日、政府の地震調査研究推進本部は「今後、兵庫県南部地震の震源域で、マグニチュード(M)6クラスの余震の可能性は小さい」との見解を発表した。

 「千年は大丈夫」との声が被災地で聞かれる。余震減少に加え、六甲山の隆起をもたらした地震は過去の調査で、数百年から千年周期と推定されるからだ。

 しかし、地震は、もうこないのか。播州を横切る約六十キロの山崎断層が動く可能性はどうか。

 活断層の権威で、兵庫県が震災後つくった阪神地域活断層調査委員会委員長の藤田和夫・大阪市立大学名誉教授は楽観を戒める。

 「千年先というのは、今回で六甲のエネルギーがすべて解放された時のこと。そうとは言えない。山崎断層や、北側の有馬・高槻構造線など周辺の断層が動く可能性もある」

 同教授は、今回動いた六甲断層群が山崎断層と明石海峡でX字に交わり、相互に強く影響し合う関係にあるとする。山崎断層の動きが、シーソーのように六甲断層群の動きにつながることを意味する。

 兵庫県の調査委員会は、神戸阪神間の地盤解明に取り組み、近く断層を含む地質図を作製する。六甲、山崎断層が動いた「過去」を調べ、予測に役立てる作業も来年度から着手する。

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 昨年十一月、神戸空港予定地直下の大阪湾で活断層が確認された。市は、予定地は変更せず、耐震を強化する道を選んだ。

 「教訓は十分に認識しているが、行政は結論を出していかなければならない。空港は必要。技術で克服したい」と市空港整備本部の湊照夫参事は話す。

 ある地質学者は最近、同市職員から地盤調査を依頼された。「対象地域に活断層が見つからなかったら安全宣言を、と言われた。地震被害はそう単純な話ではないのだが」と、姿勢に疑問を投げかけた。

 大阪市立大の研究チームは二十二年前、「直下型大地震による壊滅的被害」の可能性を、神戸市に報告していた。その後も直下型地震の対策はなく、市民への警告もなかった。

 見直しが進む地域防災計画は、「直下型、震度7」が前提になる。山と海に囲まれた細長い市街地に活断層が走る神戸での対応は、簡単なものではない。

 行政のジレンマは「安全宣言」を求める市職員の言葉に示される。が、責任は重い。

 「防災は貯蓄」と藤田名誉教授は言う。一つ一つの積み重ねという指摘である。過去のテツは踏んではなるまい。そのために何をすべきか。教訓をしっかり刻みたい。防災というテーマは、あまりにも幅広い。「復興へ第8部」は、再び起きた時の対応、「危機管理」を考えたい。

1996/1/15
 

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