元日、兵庫県警は新しい災害警備計画を施行した。改正の柱は二十項目に及ぶ。その一つに「概括的被害状況の速報」が挙げられている。
概括的な情報は、つかみ情報とも言う。「災害の程度を『大量の』『相当の』などの表現も使って速報したい」と小寺英一・県警災害対策課長は説明する。
阪神大震災発生の日、県警発表の死者は、約四時間後の午前九時五十分でわずかに二十二人、同十時四十五分、七十二人である。
確認にこだわった結果、と県警は反省している。
午前七時すぎに出動した自衛隊ヘリを皮切りに、兵庫県警などは、上空から燃え広がる火災を確認した。しかし、全壊した家も屋根が残り、被害の詳細は分かりにくい。その下で、多くの市民が亡くなっていることはつかめなかった。
情報の遅れは、他府県の警察・消防応援要請、自衛隊派遣要請の遅れにつながった。
県警が考えているのは、非常招集で警察に向かう警察官が、自宅周辺や途中で見聞きした状況を署で報告、県警が集約し、災害で一番重要な「初動」に役立てることだ。
小寺課長は「近畿の各警察本部が交代でヘリ当直し、その情報も重視しているが、状況は地上で見ないと分からない。今後は未検視の死者数も公表する。大づかみでも、被害の全体像を示せば、自衛隊の要請も促すことになる」と強調する。
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当時、県から自衛隊への派遣要請は午前十時に行われた。同十一時、貝原知事は、県警本部長に、「自衛隊、消防と連携して救助に全力を」と要請した。
近畿を管轄する陸上自衛隊第三師団を中心に、自衛隊は続々現地入りした。しかし、混乱する情報は連携の遅れも招く。
長田署の福島勲署長は、管内を見回っていた正午すぎ、自衛隊車両の列に会った。「どこにいくのか」と聞くと、指揮官は「指示待ち」と言う。「それなら長田で」と、救出活動が始まった。
警察、消防、自衛隊の会議は連日、署長室で一月末まで続いた。区を南北に三分割し、三者の担当を決めて捜索、警察無線を持った署員を自衛隊に入れた。
「上からの指示が来る前に、現場の責任で、乗り切る覚悟が必要だった」と福島署長。第三師団の米谷哲司・三佐は「自衛隊では、部隊の送り先も分からない。長田でまず警察に入ったのは正解だろう。『どの地域がひどい』とだけでも連絡がほしい」と話す。
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災害時の基本の地域防災計画改定を進める神戸市は、自衛隊、県警、市消防局などの初動体制検討チームで、情報収集と伝達、共有のあり方を探っている。
兵庫県は、コンピューターの災害対応総合情報ネットワークシステムを検討、今年九月の運用を目指す。県の各機関、県警、市町、消防本部などに端末を置き、それぞれに収集したデータや映像を入力する。情報は県災害対策本部のほか各端末でも引き出せる。
「情報の共有化で、応援体制も組みやすくなる」と県消防防災課の安西修三参事。しかし、ばらばらに寄せられる情報をどう集約するか、どの情報に信頼を置くか。収集後の判断は、課題として残る。
兵庫県警は災害警備計画で「関係機関との協力体制の確立、連絡調整」を明記した。が、具体的な内容はまだ検討中だ。
1996/1/16