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(5)ボランティアを計画に組めるか 「善意頼り」に課題残る
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 十七日午前五時四十六分。日本災害救援ボランティアネットワーク(NVNAD)の伊永勉代表は、JR西ノ宮駅に近い本部にいた。

 「ガス漏れのにおいが自宅周辺に広がっている」
 「高速道路が倒壊している」

 ボランティアから電話で情報が入る。内容は市と西宮署に伝える。災害の情報収集と緊急放送による市民への連絡、避難誘導、登録ボランティアの派遣…。

 一年前の発生時刻を期して始まった訓練は、震災の反省から生まれた。

 同ネットワークは、被災者支援を続けてきた西宮ボランティアネットワーク(NVN)が、元日に改称した。登録は約四十団体、二万八千人。最大の特徴は、調整機能にある。

 当時、全国のボランティアが被災地に入った。どこで何をすればいいか、ボランティア自身も、行政も、戸惑った。当初、調整を果たす組織も不在だった。

 ネットワークには、専従スタッフが六人いる。災害時、拠点で橋渡しに徹する。ふだんは全国にノウハウを提供。東海地震を想定した救援訓練を、二月下旬にも静岡市と実施する。

 「善意をむだにしないボランティア活動。一年の教訓はこれに尽きる」と伊永さん。全国初の災害救援専門の社団法人を目指す。

    ◆

 行政側はボランティアの役割見直しを始めた。「力を借りなくては、対応できない」との認識からだ。

 十七日、兵庫県で発足した災害救援専門ボランティアは、救急、医療、コーディネーターなど六分野約千二百人が登録、要請で県外にも出向く。東京都武蔵野市は、活動の支援条例を制定、事故に備えた保険料一部負担などを盛り込む。

 「何らかの形でボランティアを防災計画に位置付けたい」。政令指定都市、県内各市などが対象の神戸新聞社アンケートに、すべての自治体がこう答えた。

 活動拠点の確保、個人の安全保障など、行政側の役割・分担は明確になりつつあるが、位置付けの明記に自治体は戸惑っている。

 ボランティアの側にも意見の違いがある。

 「緊急時は、『どこがどう』などの議論は通用しない。再建は行政支援から始まる。行政はボランティアに託す範囲を計画に明示すべきだ」(伊永さん)

 「条例などがなくても市民は自発的に動くことが震災ではっきりした。対等な立場だ。善意を計画に組み込むのはなじまない」(地元NGO救援連絡会議代表の草地賢一さん)

 救援連絡会は、事務所に「〇〇で要請あり」と、職安の求人票のように張り出した。グループがそれぞれに動いた。行政によるボランティアの管理を懸念する声も根強い。

    ◆

 政府与党は、法人格取得緩和、税制優遇措置などを盛り込むボランティア法案を議員立法で、通常国会に出すことを考えている。

 大蔵、法務、自治など十八省庁も、昨年二月から連絡会議で論議、政府案を検討してきた。しかし、議員立法の動きに配慮し中間報告も未公表のまま会議は中断。法案の国会提出は、政局の動向が絡んで流動的だ。十五日から初のボランティア週間が始まったのに、課題はすっきりしない。

 震災のボランティアは延べ百三十万人。初めての経験者が約六割を占めた。

 「縦のシステム(行政)が壊れた時は、横のつながりを生かすしかない」。伊永さんの言い方は明快で、自らが進めるしかないという決意に受け取れる。

1996/1/19
 

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