「官」と「民」の違いだろうか。世界をまたに医療救援で活躍する二つの団体の対応は、ずいぶん違っていた。
岡山市に本拠を置く医療NGOのAMDA(アムダ・アジア医師連絡協議会)は、ソマリア、旧ユーゴ、ルワンダなど二十カ国以上で活動してきた。
「神戸へ行かないのか」「医療チームは編成しないのか」。阪神大震災の発生当日、菅波茂代表のもとに、登録する医師から電話がひっきりなしにかかった。
国内の出動経験はない。だが、菅波さんは即座に派遣を決断した。十七日夜には神戸市長田区へ入り、救援を開始した。
国の特殊法人「国際協力事業団」(JICA)国際緊急援助隊医療チームの神戸入りは、遅れること約三週間、二月五日である。
同医療チームも開業医らが登録する。メキシコ地震やニカラグア地震など海外での経験が豊富だ。
活動は国際緊急援助隊派遣法で、「海外での大規模災害発生時」と限定されている。神戸派遣をどうクリアするか。名目探しに時間がかかった。つけたのは、「海外出動前の訓練」という理由だった。
外務省は「今回は例外中の例外」とし、法改正は今後も不要という。
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外務省によると、震災で現在まで八十の国・地域・国際機関から救援物資や援助隊の申し出があった。
各省庁で構成する非常災害対策本部が申し出内容と現地の必要性を検討した。医師受け入れには、厚生省が医師法を盾に難色を示した。受け入れは四十六カ国・地域にとどまった。
スイス、フランス、イギリスは当日、レスキュー隊派遣を申し出た。スイス救助隊は、チャーター機で即日現地入りできるよう二十四時間体制を取る。しかし、被災地入りはそれぞれ二日、五日、一週間後。各国のマスコミは、受け入れ側の対応の遅さを批判した。
対策本部の関係者は話す。「これまで海外の援助隊を受け入れた経験がなかった。現地で本当に援助が必要か、問い合わせにも時間がかかった」
今後の対応はどうか。
国土庁は「災害対策基本法改正で、対策本部メンバーを各省庁局長級から閣僚に引き上げた。意思統一や迅速な判断が可能になった」とし、外務省は「法改正は難しく、柔軟な運用で対応するしかない」と話す。
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昨年五月のサハリン地震で、菅波さんらのAMDAは、現地NGOと協力し救援活動に当たった。
阪神大震災で、AMDAはフランスのNGO「国境なき医師団」を受け入れ、震災特有のクラッシュ症候群治療などのアドバイスを受けた。サハリンでそれが生きた。医療行為は、法律上、無理でも活動の範囲があることを示した。
十月には、民間団体と支援組織「72ネットワーク」を設立、国内の大規模災害で救援活動に当たる。
菅波さんは、法や前例にこだわる「官」に、すばやい動きは難しいとも考えている。
「救急・救助に最も大切な災害発生後七十二時間以内は行政の対応は期待できない。各国の民間レベルで連携できるNGOの力が必要だ」
十二月中旬、国が音頭を取ったアジア防災政策会議が神戸で開かれた。
アジア防災センター設置や各国の援助協力などを盛り込んだ「神戸防災宣言」を採択した。しかし、民間の役割や官民の協力体制には触れられなかった。
1996/1/24