NHKと首都圏の民放ラジオ五局の特別番組「災害情報交差点」は、十七日午後零時半から始まった。
「今、お聞きになっているどのラジオでも、災害時に必要な情報が得られます」と、進行役のまちづくりコンサルタント渡辺実さんは切り出した。約二十分の番組は、TBSスタジオと、東京電力、東京ガス、NTT、東京都水道局の担当者を専用回線で結んだリレー中継で行われた。
チャンネルを変えても、番組は変わらない。六局も同じというのは、リスナーにも不思議に映った。
災害時の実験ともいえる「情報交差点」のきっかけは、四年前の二月に東京で起きた震度5の地震だった。「情報を伝えるにも、一局では限界がある」。各局の有志が小さな研究会を発足させた。阪神大震災後、機運はさらに高まる。
「被災地のラジオの努力はわかるが、あれだけでは足りない。ラジオ報道は発生二、三日が勝負だ」。渡辺さんが代表になったラジオ・メディア研究会は、昨年三月に発足、各局の防災担当者が正式に参加した。毎月一回論議を重ねた。
NHKも参加する画期的試みになった第一回「情報交差点」は、九月一日の防災の日に放送された。
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六局の同時放送は、実施の方向を確認、その日に向け、検討を重ねている。
毎定時、三十分なりの枠を決め、水、電気、ガス、電話、医療などのライフライン情報を中心に流す。電力、ガス会社などと専用回線で結ぶため、情報は早い。献血呼びかけなどは幅広く訴え得る。危機状況を乗り切れば、終了する・。
しかし、マスコミは競争で動く。同一の放送を流すことは、一時的にしろ、競争の棚上げを意味する。
ニッポン放送(東京)の災害放送担当、中村信郎さんは、十五年間、災害報道に取り組んできた。被災者が何を求めているか、を丹念に追ってきた。
「被災者に必要なのは、被害情報でなく、安否や生活関連などの安心情報。ラジオは報道機関ではなく、防災機関に徹すべきだ」と強調し、「報道の論理は状況が落ち着いてからでいい」と話す。
ニッポン放送は災害時、個々のビル管理者や、私立学校関係者から状況をファクスで送ってもらう体制なども整えている。
停電になった時、すぐに頼れるメディアはラジオ、という自負と使命感がうかがえる。
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関西では九四年、大阪の民放三局とNHKが災害問題協議会を結成。地下街など電波が届かない死角に災害情報が伝えることを研究している。震災後はAM神戸も参加、担当者間で災害時の情報交換などの協力を申し合わせている。
首都圏のような共同放送には懐疑的だ。
MBSラジオ編成部の松村卓正部長は話す。「被災者に必要な情報は関係機関から一斉にいただきたい。しかし各局の個性ある放送を失うのはどうか。共同放送で誤報が流れた場合、責任の所在の問題もある」
AM神戸の山田健人報道制作局長も「メディア間の連携は模索すべきだと思うが、情報発信局のクレジットを付けるなど工夫が必要では」と指摘する。
何をどう伝えるか。被災者が情報過疎に置かれた震災は、被災者が一番求めている情報、安心情報に主眼を、との教訓を残した。その先は模索が続く。
1996/1/21