兵庫県西宮市の埋め立て地・西宮浜で同市が行った訓練には、初めて自衛隊員の制服姿があった。
伊丹の陸上自衛隊第36普通科連隊など約六十人。倒壊家屋から隊員が被災者を救助する。消防にバトンタッチし担架で搬送する。自衛隊に期待されたのは、初期段階の人命救助だった。
十七日、阪神間の自治体は一斉に防災訓練を実施した。陸自が参加した宝塚、川西、三田での役割も同様である。
震災前、自衛隊は道路をふさぐ車を撤去したり、傾いた民家を壊したりする救助はできなかった。災害対策基本法で「被災工作物等の除去等」と呼ぶ、その権限が、昨年十二月の法改正で自衛官に与えられた。
延べ二百二十万人が被災地に入った活動に、防衛庁は「成果はあったが、問題点もあった。見直しは歓迎だが、もっと早ければという思いもある」と話す。警戒区域の設定や立ち入り制限も、同法で認められていなかった。
自治体側も、自衛隊との関係強化に乗り出す。
西宮市防災対策課は「自治体には限界がある。自衛隊との連携が不可欠」と話し、兵庫県川西市は訓練結果を総括し、地域防災計画に反映させる予定だ。同市防災担当は言う。
「今後、市が自衛隊に直接、派遣要請を行うことも想定される。その詰めも必要だ」
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事務次官通達 震度5以上の地震が発生した際は、偵察機を派遣
自衛隊法施行令 知事の派遣要請で、明確にする必要があった期間を「希望期間」に変更。人員や船舶など派遣規模項目は削除。
防災業務計画 知事と連絡ができない場合、市町村長からの通報に基づき、部隊を「自主派遣」。
災害対策基本法をはじめ、災害での自衛隊の見直しは相次いだ。
大震災で伊丹の中部方面総監部が、非常呼集をかけたのは午前六時。倒壊した阪急伊丹駅など「近傍派遣」と呼ぶ活動はあったが、本格派遣は、知事要請を待った同十時すぎだ。例外措置として認められていた「自主派遣」は、「暴走した印象を与えかねない」(陸自幹部)と懸念した。
自衛隊の役割は、十分に論議されたのだろうか。
昨秋の衆院災害対策特別委員会。防災業務計画などの見直しに、「法律の拡大解釈ではないか」と指摘した新進党議員は「むしろ自主派遣を法で明文化し、市町村長に要請権限を広げるべきだ」と、続けた。
答弁したのは長年、自衛隊に異論を唱え続けた社会党の池端国土庁長官。「業務計画で、具体的に場面が想定してある」と、あっさり答えた。共産党は、自衛隊の運用に質問を重ねたが、大半の質疑は「効率よい出動」に集中する。自主派遣の在り方は、ほとんど議論されずに終わった。
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総理府が十二月に発表した「自衛隊の役割の世論調査」で、震災派遣に九〇・二%が、成果を挙げたと回答。自衛隊の目的には「災害派遣」が「国の安全確保」を上回った。
政府は、防衛力整備の指針・新防衛計画大綱を、十一月に閣議決定。「大規模災害への対応」という言葉を、内容に触れないまま、新たに盛り込んだ。
防衛庁は、自衛隊法改正の準備に入り、陸自も、空中機動旅団の設置を計画する。ヘリを集中配備し、災害時は緊急展開する。
認知を得たかのように、準備は着々と進む。
1996/1/23