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(8)自らを守る住民防災組織とは 下からの積み上げ大切
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 東京都墨田区。狭い路地が入り組む下町の曳舟文化センターは、五百人を超す住民でぎっしり埋まった。十三日、神戸市長田区の「神戸市民語り部キャラバン隊」が、震災の教訓を口々に伝えた。

 「防火水槽の水はすぐなくなる。川から水を引く方法も考えた方がよい」

 「上(行政)から言われてできた自治組織は、震災で役に立たなかった。若いリーダーが必要だ」

 墨田区は古い木造が密集し、高齢化率も高い。住民らは関東大震災の体験を語り継ぎ、十年前に「一言会」を結成した。雨水を地下タンクにため、防火用水に役立てる「路地尊」の設置など、防災の街づくりに取り組んできた。

 それでも震災体験は生々しい。参加者は「防災は建前より本音。ここも自治組織のリーダーは高齢者だが、災害時にそれでいいかなど考えなければ」と話した。

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 静岡市を訪ねた。

 夜、海辺に近い公民館に、約五十人の住民が集まってきた。宮竹自主防災会主催の防災座談会が始まった。

 東海地震で、地域はどうなるか、家屋倒壊などの被害想定を市職員が具体的に示した。「津波はどうか」「どこに逃げればいいか」。注意を促す職員に液状化などの質問が相次いだ。

 同市の自主防災組織率は百%。市は「地震発生から三日間は地域で対応を」と説き続ける。市防災課の稲葉定夫課長補佐は「三日間、行政が何もしないわけではない。互いに当てにせず、複数の対策をという意味だ」と説明し、続けた。

 「阪神大震災で危機感を持った住民は多い。それまでは防災意識の低下に歯止めをかけるのが精いっぱいだった」

 住民自らが、機材・食料の備蓄倉庫を持つ国吉田国道町自主防災会に回った。

 「いつか役に立つ日がくる」と、会長の増井義春さん(60)は自信を見せた。「訓練は全世帯参加。花見や祭りもして、とにかく人が集まる機会をつくるのが継続のこつです」

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 震災一年の十七日、神戸・ハーバーランド西隣の東川崎公園で自主防災訓練があった。東川崎地区は、市が目指す「防災福祉コミュニティ」のモデル地区の一つになる予定だ。

 自治会長で、まちづくり協議会会長も兼ねる後藤実さん(72)は「震災当日、ガス漏れがきつく、役員がマイクで『マッチを使うな』と回った。四人を亡くしたが、火事は一件もなかった。ふだんの夜警が役立った」と振り返った。

 「給食サービスなどを通じ、独り暮らし老人の安全対策を進めたい。防災の回覧を回すとか、消火器更新とか、のこぎりなどの器具を備えるとか、そういったところから始めたい」

 モデル地区指定は市内十一カ所で三月までに行われる。地区の選別はまだ終わっていないが、同地区のような母体がなければ、一からのスタートになる。

 下町で、母体のあるところは、高齢化が進む。若いリーダーの育て方、昼間も地域にいる商店主らの負担など課題は尽きない。

 震災は、助け合った共通の体験を残した。「もっと助けられなかったか」との苦い思いもある。

 墨田区の集会で、キャラバン隊の一人は「防災、防災とあまり肩に力が入りすぎてはあかん」と、締めくくった。

 「地域のみんなでどれだけ仲よく遊ぶか。そこから防災の真のエネルギーが生まれるのとちゃうやろか」

1996/1/22
 

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