自民党の野中広務幹事長代理は、被災者の生活支援の中身に、触れようとしなかった。繰り返す質問にようやく口を開いた。
「個人給付は復興基金で考えられないか。個人向け施策は基本的に市町がやるが、フォローするのが県。県には基金がある。基金へは国が交付税措置をしており、支援は惜しまない」
隣の亀井静香党組織広報本部長がマイクを引き取った。「国のベースでどんぶり勘定の対応はできない。一人ひとりの事情を把握するため、地元は汗をかいてもらわねばならない」
震災一年半を経た十八日。国の概算要求を前に被災地入りした自民党調査団は、伊丹市で記者会見した。生活再建が残された課題との認識は示しながらも、最後まで国費を直接投入する支援策には言及しなかった。
調査団の現地入りを前に、地元では、思い切った個人支援策を打ち出すのではという憶測が飛び交った。「一律百万円」との額までささやかれた。
情報は結局、ある代議士の見解が独り歩きしていた結果と判明するが、そんな憶測も、「中央の雰囲気が変わってきた」との受け取め方があったからだ。
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復興公営住宅の家賃低減策が発表された六月二十日。鈴木和美・国土庁長官は会見の席で、事務当局が用意したメモにはない、こんな表現を使った。
「個人補償はどうしてもできない。これは個人補償的なギリギリの支援だ」
低減策は家賃を最低月額五、六千円台まで引き下げる。被災者の間接的な生活支援になる。発言を聞いた同庁幹部は「『的』が付くとはいえ、政府の一員が個人補償に言及したのは初めてではないか」と漏らした。
厚生省も同二十日発表した生活福祉資金の拡充策で、貸付額引き上げや償還期限延長などとともに、地元が強く求めていた保証人制度の緩和を認めた。
被災者には保証人を得ることが難しい人もいる。審査の上、財団法人「阪神・淡路大震災復興基金」が実質的にリスクを負担、保証人がないケースもOKとした。返済が大前提だが、いわば焦げ付きに公的機関が補てんする内容だった。
政府復興対策本部事務局長として家賃低減策を中心にした住宅プログラム策定の中心的役割を務め、このほど退官した三井康壽・国土庁顧問は「結局、個人補償の問題が残った」と総括している。
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「個人補償という言葉がボタンのかけ違い。結局、このじゅ縛からの長い道のりだった」と、作家・小田実さんらでつくる「大震災 声明の会」事務局長、山村雅治さんは話す。
同会は今年五月、全壊世帯への一律五百万円支給などを盛り込んだ「生活再建援助法案」を発表、制定を強くアピールしている。
法案には、「個人補償」の字句はない。「公的援助」という言葉を使った。補償には損失を補てんするというニュアンスがこもる。国は「私有財産には補償はできない」という姿勢を一貫して取ってきた。
同法案の前文は、こううたった。「国と自治体は被害を受ける市民を守り、その回復・再建のための責務を負っている。国と自治体はその責務を実現するために存在する」
震災被害のすさまじさ。自力再建の難しさと被災者の苦しみ。個人補償はようやく「門前払い」から「何らかの検討」へと動き出したかに見える。しかし具体化の道筋はまだはっきりしない。
(桃田武司、西海恵都子、鉱隆志、坂口清二郎、陳友〓(注)〓は「日」かんむりに「立」)=第11部おわり=
1996/7/20