■24時間無休の荷役続く神戸港
六月二十九日。土曜日の深夜、神戸・六甲アイランド西南角のC3バースで、コンテナの荷揚げが行われていた。
ナトリウム灯のまばゆいオレンジの光が、川崎汽船「ゴールデンゲート・ブリッジ」のグレーの船体を照らし出す。ガントリークレーンが船倉に伸び、コンテナをつかんで降ろす。岸壁ではトレーラーが走り回っている。
夕方から始まった計三百五十個の荷役は三十日未明まで約七時間。アイスクリームや肉類など輸入貨物を降ろした後、輸出分を積み込んだ。
「きょうは予定通りだったが、神戸港が日曜を含めた二十四時間荷役をするようになって助かる」と、川崎汽船・ターミナル監督の大下郁二朗さん。
北米西岸とアジアをピストン運航するゴ号は、厳しいスケジュールに縛られている。西海岸では米大陸を横断する貨物鉄道と連絡し、遅れれば、列車に積み込めない。米国の貨物列車は一度に四、五百個輸送、船で言えば五千トン級に相当し、始終走っているものではないからだ。
ゴ号は、神戸港ではいつも土曜の夕方から深夜に荷役を行うよう運航している。大下さんは「北太平洋の冬場のシケは厳しい。行程が遅れ、入港が日曜にずれこむことがしばしば。日曜荷役をしていなかった震災前は月曜まで待った。丸一日以上の遅れを取り戻すのは大変だった」と話す。
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全国一のコンテナ港・神戸港で「年中無休」の荷役が始まったのは、昨年三月だ。多くの岸壁が大きな被害を受け、港湾機能がマヒした。
残された岸壁をどう有効に使うか、貨物を神戸につなぎ止めるためにどうするか・。二十四時間荷役は、長年の労使の課題だったが、震災の現実を前に、「特例措置」は二年間の限定付きですんなりと決まった。
実は二十四時間荷役は、全国で唯一、静岡県・清水港で約二十年前から行われてきた。清水は、横浜・名古屋・神戸など五大港の「はざま」の港で、時間的制約から五大港で荷役できなかった船が清水に入った。
五大港を中心に、特例については横並びを取ってきたが、他港も今回は神戸の措置を容認した。
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この五月に発足した関係官庁と労使の「神戸港復興推進協議会」は今、特例措置の延長を視野に、問題の洗い出しと検討を進めている。
だが、「総論賛成、各論反対というのが現状」と関係者は漏らす。
深夜や日曜の割り増し荷役料金も特例的に引き下げているが、船会社は「もともと経費が高く、引き下げるべきだ」と主張、港湾業界や労組は「国内どこの業界を見ても時間外の割り増しは当然」「労働強化にならない勤務体制の整備も必要。賃金も国内他産業に比べ高くない」と訴える。
兵庫県港運協会の高橋春雄専務理事は「港湾を鉄道と同じようにみる人がいるが、船はシケに遭えば遅れる。年中ほぼ同条件の鉄道と比べると、波動性労務体制の確保は難しい。人件費を吸収できる貨物増加がなければ」とも悩む。
交代制導入や労働時間、割増賃金の労使合意、料金をめぐる交渉など、「各論賛成」に至るまでに課題は多い。
一時の混乱を脱し、落ち着きを取り戻し始めた今、特例をどう考えるかは、ミナトだけの問題ではない。
1996/7/13