強い夏の日差しが照りつける。スーツ姿の四人は、額の汗をぬぐいながら企業訪問を続けていた。その日訪ねたのは神戸の船会社や大阪の電機メーカーなど三社。上着は汗でぐっしょりだった。
リーダーの竹部元造さんは名刺を二枚持っている。一枚は本職の神戸市震災復興本部総合計画課長、もう一枚には「日中上海・長江・神戸・阪神交易促委員会事務局員」とある。
同市が掲げる復興シンボル事業の上海・長江プロジェクト。各企業でその内容を説明し、取り組みの考えを聞く。六月から始めた聞き取り調査で五十社を回ったと竹部課長は言う。
同プロジェクトは河川・外洋の両用船を開発し、長江流域と神戸の交流を目指す壮大な計画だ。今年三月、国と兵庫県、市、経済界などの促進委員会が発足。会長に政府復興委員会委員長だった下河辺淳氏が就任した。参画企業は機械メーカーや食品会社、商社、銀行など約六十社に上る。
だが、「参画は将来への担保」といった思惑や様子見の姿勢も企業にうかがえる。「中国をマーケットに事業を始めているが、長江プロジェクトで何が可能になるのかは未知数だ」と神戸の食品メーカー。
竹部課長は「企業が事業意欲を持てる仕組みをどうつくるか。成否はそこにかかっている。個々には構想もあり、事業の中に生かしていきたい」と話す。
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六月初旬に神戸で開かれた促進委員会の第一回専門部会。港湾・都市系、流通・産業系、人流系の各会合でも多くの課題が出た。
会見した下河辺会長は「長江の自然環境に対する調査を慎重かつ急ぐ必要がある」と話した。長江のスケールは日本人の想像を超える。その自然は船の構造、大きさ、頻度など物流ルートの枠を決めるからだ。
大阪と長江上流の武漢を結ぶ定期航路はすでに開かれている。香港、中国の合弁会社が運航する「リング・フェング」(三、五〇〇トン)で、月二回、大阪南港に着く。
水深を考え、船底は浅い。コンテナ満載でも水面下三・一メートルしか沈まない。途中の南京大橋をくぐるためマストやクレーンもない。
「最近、日本から建設機材や工場プラントを運ぶようになった。内陸部に日本企業が進出し始めた」と、総代理店・サンキュウシッピング大阪支店の神原猛支店長。だが、中国の貨物は綿糸や竹製雑貨が大半。長江プロジェクトでも物流の中身が最大のテーマになることを示している。
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国レベルの復興特定事業にも位置づけられるプロジェクトは、十年の長期構想だ。当面の目標は今年十月の日中代表者会議。それまでに提案内容を固め、中国側にも国家事業としての位置づけを求めたいという。
八月には、長江流域各市から実務者が神戸視察に訪れる。「現地の熱は高まっているが、北京政府の方針が明確にならないと話が進めにくい」と竹部課長。各都市は、経済特別区で一気に発展した深〓など沿岸部との格差解消を狙う。
神戸市側もポートアイランド2期を念頭に、規制緩和や優遇税制の「特別区」を設け、神戸経済全体の起爆剤にと考えている。
「こぢんまりとまとまったものにせず、混とんとした中から民間のエネルギーを引き出したい」と下河辺会長は言う。
税の優遇措置、規制緩和など国の壁。中国政府の出方。物流の仕組み…。ハードルはまだ高い。
(注)〓は「土」へんに「川」
1996/7/16