「神戸観光の状況を見るには、あの場所が参考になりますよ」。そんな話を聞いて三宮北の繁華街を走る山手幹線を訪ねた。
「観光バス乗降車場」と書かれた看板が四カ所に立つ。六車線道路の一角は、全国から北野の異人館街見学に訪れる大型観光バスの特別駐車スペースだ。震災前、観光シーズンにはバスが数珠つなぎになった。
七日の日曜日、朝十一時。昼食前に異人館を見学するにはピークの時間帯だが、バスは三十分間に三台が止まっただけ。生田警察署は「今年はゴールデンウイークでさえ満杯になることは一度もなかった」と話す。
神戸市によると、ゴールデンウイークまでに、市内の主要観光施設の九割が回復した。異人館街は二十四館のうち、十八館が再開した。期間中の観光客は一昨年の八五%まで戻った。
しかし、異人館街の土産物店店主は「売り上げは震災前の約一割。人が何ぼおっても遠方の団体が来なあかん。観光バスが来てくれんとな」とぼやいた。
平日はとりわけ人通りが少ない。昼すぎまで何も売れないこともある。「観光客は八五%」という数字に実感は全くないという。
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被災地の厳しい状況の中で、神戸市などが少しずつ観光キャンペーンを再開したのは昨年四月だった。テレビCMのほか、旅行代理店などを回ってツアー再開を呼び掛けた。
神戸は観光関連産業のすそ野が広い。九三年の調査では事業所数で全産業の約三割、従業員数で約二割を占める。京都市もしのいで政令指定都市の中でトップの数字である。「神戸に来てもらうこと自体が、被災者の生活の再建や経済の復興につながっていく」と同市観光交流課は話す。
しかし、鉄道が全面開通した後も、幹線道路の復旧は時間がかかった。交通規制で渋滞は続いた。
震災前、バスツアーで神戸方面に年間二千人の観光客を送り込んできた中日本観光サービス(名古屋市)は話した。「今も神戸ツアーはストップしている。渋滞で時間が読めない。阪神高速神戸線が全面復旧する十月には再開したい」
同様に神戸観光を数多く手掛けてきた北陸交通旅行社(金沢市)は「被災地への観光はまだ避けたい。道路が復旧しても、もう少し状況を見たい」と慎重な姿勢だった。
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神戸市や観光業界は「阪神高速の復旧は観光PRの絶好の機会」と力を込め、ポスト神戸まつりのプランを練っている。
昨年十二月、旧居留地周辺で行われた電飾による光の彫刻・神戸ルミナリエは、十一日間に二百五十四万人を集めた。
企画・運営に当たった電通関西支社の関西プロジェクト室は「港町の神戸が持つモダンでハイカラなイメージにどんな味付けをしていくか。ルミナリエを観光資源の中核として取り組めば大きな効果が期待できる」と話す。
兵庫県商工部も「札幌の雪祭のように、神戸のイベントとして定着させたい」とし、神戸市、商工会議所と詰めを急いでいる。近く今年の取り組みを発表する予定だ。
一日発行の神戸市広報紙は、一面に観光キャンペーンを掲載した。みんなでつくる「また訪れたくなる街」と市民に呼び掛けた。同時に「生活とかかわりの深い観光関連産業」と見出しを掲げ、被災者の現実に気を使った。
1996/7/9