■セルフ化や連携策検討
赤いのぼりが、プレハブ仮設店舗の前ではためいている。
神戸市兵庫区の御旅センター市場。百平方メートルのこぢんまりとした店は、肉、野菜などの商品が整然と並ぶ。呼び込みの声はない。客は品物をレジに持っていく。市場とはいうものの、ミニスーパーの雰囲気だ。
パンの陳列台に「食パンの上手な保存法」と手書きのメモが張られていた。長年培った顧客とのつながりを、という配慮のようだ。
同市場は震災で全壊、仮設店舗の呼び掛けに応じたのは、三十三のうち七店舗だけだった。多くは店主の高齢化や後継者難で商売をやめた。七店舗は思い切ってセルフ方式を試みた。
青果、精肉、鮮魚など各店が従来通りに仕入れをする。七店で賄い切れない商品は市場組合が扱う。レジで店名と売り上げが個別に記録され、独立採算の仕組みになっている。
「一人ひとりの力は弱い。でも、力を合わせれば、それなりの売り上げになる。セルフ方式の良さが分かってもらえつつある」と組合理事長の白石孝さん(58)。
売り上げは開店前の予想をはるかに上回った。客層は若い人にも広がり、閉店は以前より一時間遅い午後八時。本設店舗は来年末までに完成の予定という。
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市場は震災前から衰退傾向にあった。大手スーパーなどの進出で売り上げが落ち、空き店舗ができる。それが客足を遠のかせ、さらに空き店舗を増やす悪循環を生んでいた。
「つぶれたものを元通りに建て直すだけではだめだ。(復興には)活性化に向けた頭の切り替えが必要」と、兵庫県立中小企業総合指導所の藤井玉夫さんは話す。
しかし、震災の打撃は大きく、仮設から本設店舗への道筋がついたケースは多くない。神戸市によると、東灘、灘、中央、兵庫、長田、須磨の市場で九百三十店舗が全壊。仮設での営業は約三割で、残りは再開していない。市場全体として本設店舗を再建したのは、神戸市須磨区のジョイエール月見山だけである。
二十二の仮設が並ぶ長田区の菅原市場。セルフ方式の勉強を進め、八月に基本構想をまとめる予定だ。
組合理事長の清水政夫さん(68)は「店主の高齢化が一番の問題だが、区画整理の対象地域で、どこに市場ができるのかさえはっきりしない。店舗の参加数も見通しが立たない」と話す。
神戸市東灘区の甲南市場は更地が広がる中で、被害が軽かった数店が営業している。市場の面影はなく、再建には再開中の店舗を取り壊さなければならない。市場を離れた店主は「復活は難しいだろう」と漏らした。
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最近、御旅センター市場にジョイエール月見山から一つの提案があった。同じ名前を使い、販売促進商品の共同仕入れなど連携を探ろうという内容だった。
今年四月にオープンした月見山は、その名前を神戸市中央区の「宇治川公設市場・ジョイエール」から取っている。「組合員と話し合って前向きに検討したい」と白石さん。宇治川と月見山と御旅。運営主体は異なるが、「セルフ方式による再生」という共通点を持つ三市場が、震災を機に次のステップを模索している。
商店主に新たな投資か、廃業かを迫った震災。「全員が連れもって活性化というのは無理だ」と、神戸市産業復興局の梶原謙吉主幹は言う。レールを走り始めたところと、立ち上がりが遅れているところと。差はいっそう拡大している。
1996/7/10