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(11)恒久移転で新たな問題 見えない仮設住宅の行方
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 六月二十日、兵庫県が被災者の恒久住宅移行プログラムを発表した際、その一文は消えていた。

 原案では「仮設住宅の計画的解消」と柱立てし、こうあった。「特定入居を行いつつ、なお必要がある場合は集約化で仮設住宅の計画的な撤去を進める」

 発表文は「(仮設住宅の)供与期間の延長等」に変わり、「特定入居」「計画的撤去」の文字は削除された。

 神戸市が県に原案の見直しを強く求めたのは、その一週間ほど前だ。

 仮設入居者は市内だけで二万五千八百世帯。市側は「仮設の被災者に公的住宅への移行を促す特定入居は、裏返せば仮設からの追い出しにもつながる。誤解と不安を与えかねない」などと主張し、県も折れた。

 振り返って、兵庫県都市住宅部の柴田高博部長は「計画的な移転は実際には難しいようだ。最終的には移転に合わせ現場レベルで、統合・集約の話を(被災者と)していく方向だろう」と話す。

 早く恒久住宅へという点では一致しながら、文案をめぐる折衝は、計画にこだわる県と、現場に近い市との落差も物語っていた。

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 六月末、神戸市は兵庫県加古川市の総合福祉会館で、住民から話を聞いた。会合には神戸から播磨地区の仮設に入居した被災者約八十人と、市生活再建本部や住宅局の担当者らが出席した。

 「入居者の移転で弱者ばかりが取り残される恐れがある」「高齢者が多く、亡くなる人も相次いでいる。安否確認に県、市も協力してほしい」。仮設での生活、自治会活動などの要望、質問は二時間近く続いた。

 仮設住宅について、神戸市は当面、二つの課題を抱える。一つは国鉄清算事業団や民間などから二年の期限付きで用地を借りている三十八カ所の仮設住宅、もう一つは、市外の仮設に移り住んでいる約二千五百世帯の問題だ。

 期限付き仮設住宅は、「期限延長」を所有者に要請、市は七月中には回答を集約し、延長が無理な仮設では住民との協議に入りたいという。

 市外の仮設入居者には調査表を発送、市内仮設への移転あっせん希望などを尋ねる一方、神戸の空き仮設二百五十四戸の募集を始めている。市は「対応できるものは希望に応じたい」とする。

 しかし、東加古川仮設団地の自治会役員佐藤昭夫さん(62)は「早く戻りたい思いはみんな同じ」としながらも、「希望は仮設から仮設への移転ではない。帰りたい神戸は兵庫や長田など、震災前に住んでいた街に建つ住宅だ」と話す。

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 今月末には公的賃貸住宅の一元募集が始まり、仮設から恒久住宅への転居が順次進む。進展によっては、仮設団地で住民がぽつりぽつり取り残されるケースも予想される。

 一人暮らしの高齢者らに対する生活支援、防犯対策など、新たな仕組みが必要となる。貝原知事は「コミュニティーなどの問題があれば、意見を聴きながら統廃合を考えていきたい」と話す。

 約三千戸が並ぶ神戸・ポートアイランドの仮設住宅。港島仮設自治連絡会座長の林明文さん(67)は「事務的に『この人はあっち、その人はここ』では大問題になる」と指摘したうえでこう話した。

 「仮設解消は二、三年の問題ではない。行政と被災者が一緒に解決策を考えないとお互いに不幸なことになる」

1996/7/19
 

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