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復興へ 第11部 1年半の断面

(1)「震災失業」今なお不透明 効果見えぬ就労促進法
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支援の谷間 自ら活路
「秋口までには事務所のめどをつけたい」
 「清掃の仕事の拡大と同時に、靴の開発も進めなあかん」

 神戸市長田区の喫茶店で、四十・六十代の五人の男女が、熱心に議論を続けていた。六月二十二日に創立総会を開いた被災地労働者企業組合(長谷川正夫理事長、七人)のメンバーらだ。毎週月曜の午後に集まり、現状の課題や活動内容を確認し合う。事務所は居候のため、近くの喫茶店が会議室だ。

 同企業組合の出発点は「被災失業者に対する雇用の創出」。出資金四百万円のうち、百五十万円を七人で出資し、残りは貸付金や寄付金で工面する。乳幼児や高齢者、障害者向けの「やさしい靴」の開発・製造が目標だが、工場建設には時間がかかる。当面の仕事として、清掃業務や食品の販路拡大が欠かせない。

 「会社があれば、行政の融資を受けながら何とかなる。会社が焼け、機械も駄目になり、事業主も被災した。そこには何の支援もない」。長谷川さんは憤りを隠さない。

 工場長をしていた神戸市長田区のケミカルシューズメーカーは震災で全焼。社長は再建をあきらめた。長谷川さんの目に、行政が進める復興は「被災者切り捨て」と映る。それが企業組合の結成へと駆り立てた。

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 被災失業者の雇用対策として、昨年三月に「公共事業就労促進特別措置法」が施行された。公共事業を請け負った会社が、新たに人材を必要とする場合、四〇%以上を被災失業者から雇うことを義務付けた。

 しかし、一年以上が過ぎた今年五月末現在で、雇用はわずか四十一人。対象職種を「比較的技能を有しない土木、雑役など簡単な仕事」と限定していることが、まとまった雇用に結び付かない理由の一つだ。

 「法はまったく実効を上げていない。公的就労事業を実施し、失業者の雇用の場の確保を」。長谷川さんが代表を務める「被災地雇用と生活要求者組合」は、国や兵庫県などに再三、求めてきた。しかし、労働省は「延べ人数は四千五十二人。そこそこの実績が上がっている」と言う。「延べ」とは、人数に働いた日数を掛けた数字だが、あくまでも四十一人である。

 職種のミスマッチ、そして年齢のミスマッチ。今年一・三月の有効求人倍率は、昨年同期の〇・四七倍から〇・五四倍に上がった。しかし、四十五歳未満の〇・八八倍に対し、四十五歳以上は〇・二三倍。

 毎年八月分しかデータが公表されない職種では、昨年同月の新規求人倍率で、建設職は四・八九倍、事務職は〇・三三倍と格差は大きかった。

 今年四月、民間企業で人事や労務管理などの経験を持つ六人が、県の特別求人開拓員になった。職業安定所を拠点に、企業を訪問して求人開拓に努める。この四日、開拓員は神戸市内の洋菓子会社などを回ったが、「新規採用」の即答はなかった。

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 「失業者の人数も、ミスマッチの中身も、行政がつかんでいるのは、職安を通じて把握したものだけ。実態をきちんとつかまなければ、雇用対策も実効を伴わない」と、労働団体「連合兵庫」は指摘する。

 四万人とも十万人とも言われる震災失業者は、いずれも推計値。兵庫県職業安定課が確実に言えるのは、「震災失業者のうち、職安に求職票を出したのは約一万八千人」ということだけである。

 「失業者の就職が復興の第一歩になる」という長谷川さんらは、組合員を現在の七人から、来年度は十三人に増やす計画を持つ。しかし、組合員の収入を「最低ラインの二十万円に乗せるのに、一年くらいはかかる」とみる。

 船出はしたが、前途は多難である。

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 阪神大震災から間もなく一年半を迎える。復興計画に基づき、住宅対策などが順次、具体化しつつある。しかし、みぞうの災害から立ち上がるには、なお多くの課題が残る。「復興へ」11部は、被災地の現状を、雇用、産業、住宅など多方面から探る。

1996/7/7

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