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(2)始まった経済二極分化 下請けにリストラのしわ寄せ
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 鉄骨スレート葺(ぶ)きの町工場は、一見、活況を呈していた。

 神戸市兵庫区の臨海部。鈴木保夫さん(52)=仮名=が営むプラント用機械部品の工場は、鉄骨がわずかにひずみ、今も震災の傷跡が残る。だが、旋盤機や研磨機はフル操業状態。作業着姿の従業員約二十人が忙しく働いていた。

 「操業率は震災前に戻った。でもなあ」と、鈴木さんは言葉を濁らせた。

 悩みは相次ぐ受注単価の引き下げ要請だ。この五月には、ある部品で三割の引き下げを求められた。

 「血のにじむ努力でやっと小刻みのコストダウンができる。経営努力で実現できる幅ではない」。そう掛け合ったが、担当者は「できないならこの仕事をやめざるを得ない」と引かなかった。

 「うちの下請けにも協力を求めたが、仮設工場で頑張っているところもある。『できる範囲でいいから』としか言えなかった」と鈴木さん。「二十人が食べていかなくてはならない。利益はなくても、仕事があれば」と割り切るしかなかったという。

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 この六月、日銀神戸支店が発表した兵庫県内企業短期経済観測調査は、一つのエポックになった。「製造業を中心に全国との格差をほぼ解消した」との認識を示した。

 調査は、兵庫県内大手企業のヒヤリングが元になる。二百七十五社の回答によると、売上高そのものは九五年度実績で平均二・七%と低い伸びだったが、経常利益は七四・五%と六年ぶりの大幅増を記録した。

 神戸製鋼や川崎製鉄など震災で大きな被害を受けた企業もそろって三月期決算で黒字転換している。

 しかし、「脱震災」も業種間、そして大手と中小・零細の間で大きな落差がある。ケミカルシューズの生産量は依然低迷し、商業・サービス業も震災前の水準を下回っている。

 調査は大手の売上高の伸びが低いのに、経常利益が大幅増となったことについて、「リストラの効果が表れた」と指摘。額賀信・日銀神戸支店長は「高収益体質の実現が、下請けへのしわ寄せのもとに行われた側面は否めない。被災地ではよりその力が強まった」と話す。

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 神戸市西区櫨谷町のなだらかな丘に十棟、六十戸の仮設工場が並ぶ。神戸市が建設、被災した機械金属の零細企業などにあっせんした。

 夜に訪ねると、明暗がうかがえる。コンピューターを内蔵した工作機械を備え、競争力を持つ工場は遅くまでフル操業が続く。反面、早々とシャッターが閉まるところがある。

 長田区の工場が全壊した安田次郎さん(56)=仮名=は、いわゆる孫受け。製造部品は一次下請けを通じて大手産業機械メーカーに納入される。「単価は安いし、一日働いてももうけは少し。後継者もいないし、これからどうしたらいいのか」と嘆く。

 仮設工場の入居期限は五年だが、その先の展望は見いだせないでいる。

 下請けへの仕事のあっせんや、設備導入支援に取り組む県中小企業振興公社の滝川忠夫・下請振興部長は「部品の求められる精度は高くなる一方だが、単価は低く抑えられたまま。もはや手を差し出し、仕事をくれではやっていけない」と打ち明け、畑弘昭・県産業復興局長は一年半の被災地経済の現実をこう話した。

 「自力で立ち上がれる者と取り残されていく者と、二極分化が始まった」

1996/7/8
 

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