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(10)救えるか「民間」入居者 住宅プログラムが積み残したもの
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 「生活の厳しさは変わらない。なぜ公営住宅への入居が後回しになるのか」。JR兵庫駅南の民間アパート。1DKに家族四人で暮らす男性(51)は、納得がいかない様子だった。

 同じ神戸市兵庫区にあった木造アパートは全壊した。神戸市北区の仮設住宅をあっせんされたが、仕事は港湾関係。朝が早く、船の入港時間によっては終電に間に合わない。子供の転校も避けたかった。家賃は震災前の二万八千円が六万円になった。

 十一日、兵庫県などが発表した公的賃貸住宅の一元募集は仮設入居者に六割の優先枠が設けられた。仮設入居者は、仮設枠で落選後ももう一度、一般応募枠の抽選に参加でき、最終的には六割より高くなる見通しだ。

 「仮設優先はある程度やむを得ない。でも今、民間賃貸への援助はなにもない。ない上に公営への入居が遅れる。どうして民間への支援策が取れないのか」と男性は訴えた。

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 所得が低く、公営住宅の家賃でも厳しい被災者らに特例の家賃低減措置をと、兵庫県などが国への要望に動き始めた今年二月、地元は軽減の対象に民間も含めることを考えていた。

 三月末、東京での復興住宅担当者会議。建設、厚生、自治省の担当者らに、地元は「公的住宅の戸数不足を補うのは民間。民間にも同様の措置を」と求めた。

 だが、国側は「困っている人は公営住宅に入居するのが筋。戸数が足りないなら、公営を増やすべきだ」と一しゅう、民間賃貸への支援策は見送られた。

 その後の折衝で公営は当初計画より一万二千戸上積みし、三万八千六百戸にすることが決定。焦点は、「仮設」と「民間」の入居枠の設定に移った。

 六月上旬、兵庫県庁で住宅などを担当する県、市の幹部らが協議した。

-兵庫県-仮設住宅からの早期移転を図るため、仮設入居者には高い比率の枠が必要になる。
-神戸市-あまり率が高くては、仮設外に住む被災者の理解が得られない。公平性の問題もある。

 兵庫県は、仮設住宅の意向調査などから、公営の希望を仮設二万六千七百世帯、仮設外一万千九百世帯と推定。仮設枠は七割以上を主張、市側は五割を求めた。

 約一カ月にわたる議論で、枠は「六割」に落ち着いたが、市の担当者は「一元募集の実績を踏まえ、六割という枠がいいのか再度、議論したい」とも話す。

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 十七日の兵庫県会建設常任委員会。柴田高博・都市住宅部長は民間賃貸入居者の支援に対する質問に、「所得が中ぐらい以下で、高い家賃を払い、苦しい人がいる。期間を限り、三万円程度を限度に助成を図りたい」との考えを示した。

 笹山神戸市長も同日、震災一年半の記者会見で「具体的な取り組みを急いでいる。それなしには仮設と仮設外での差が生じる」と話した。

 「国の支援が難しいとなった後、どういう方法があるか、どう理屈をつければ可能かと模索してきた」と県の担当者。

 必要な資金は阪神・淡路復興基金から拠出する。入居者への直接補助は制度上難しいため、大家に助成して家賃低減を図りたいとし、今月中には結論を出す方針だ。

 公営住宅の家賃軽減策など「恒久住宅への移行プログラム」が積み残してきた民間住宅の課題。その内容は民間入居者の希望に沿うものになるだろうか。調整はヤマ場を迎えている。

1996/7/18
 

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