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(12)自然 災害生み出す人の営み
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 「日本人は、自分の住む土地のことを知らなくなった」

 阪神・淡路大震災の被災地を調査した高橋学・立命館大教授(環境考古学)の実感だ。太古は海だった阪神間南部や、かつて川が流れていた軟弱な土地で特に被害が大きかった。こうした土地は、大きく揺れるだけでなく、湿気やシロアリで家が傷みやすいという。

 「一九六〇年代ごろから、昔なら住まなかった場所にも家を建てるようになった。昔は、経験あるいは口伝えで災害に弱い場所を知っていた」と高橋教授。「人は多くの災害を克服したが、自然への理解は衰えた面も多い」と警告する。

 自然災害は、「天災」といえるのだろうか。人間の無知やごう慢が潜んでいるのではないか。私たちが震災で直面した疑問だった。

 三十四人が犠牲となった西宮・仁川の地滑りは、人が盛り土した所で起きた。十六人が亡くなった阪神高速道路の倒壊は「予想を超えた揺れのため」とされた。命が奪われた多くの現場で、人間の責任はあいまいにされてきた。

 「一生納得はできないだろうが、もう何をいっても愚痴になる」。阪神高速の倒壊で息子を失った遺族は言った。「十年たち、悲しみは深くなった。二度と起こらないことを祈るだけ」

 昨年の台風23号。兵庫県養父市内の会社宿舎で寝ていた田中光由さん(57)は、地滑りに襲われた。

 「ごう音とともに体が吹っ飛んだ。もうだめだと思った」。がけの上にある市道の建築現場から、九万トンもの土砂が崩れ落ちてきた。五匹の愛犬を失い、事務所や建築資材なども土に埋もれた。「明らかな人災です」

 その台風で、豊岡市街が水没する事態を引き起こした円山川の堤防決壊。学識者らでつくる調査委員会は、四十年間で決壊個所の周辺が最大約二メートルも地盤沈下し、被害を広げたとの見解を示した。その一因は、地下水のくみ上げだった。

 台風の多発などの異常気象は、人が引き起こした地球温暖化が原因とみる研究者も多い。だが、温暖化を招くとされる温室効果ガスの削減をめぐっては、世界最大の排出国である米国が「経済的な打撃を招く」と非協力的な立場だ。

 兵庫県内の温室効果ガス排出量を十年前と比べると、企業活動や交通の分野では横ばいだが、家庭での排出量の伸びが著しい。

 結局、快適さを求めてエネルギーを食い散らし、温暖化を後押ししているのは私たち一人ひとりだといえる。

 兵庫県丹波市で農業を営む東間徴(あきら)さん(61)は、「震災で、自然に対する無力さを痛感した」という。

 当時住んでいた宝塚市のアパートは全壊した。都会での暮らしに疑問が膨らんだ。災害時、最低限の食糧さえ自分で賄えない。豊かに見える生活は、原発などから供給される膨大なエネルギーに支えられている。

 「人は自然から奪い取るばかりで、実際には新たな危険を生み出している。人と自然の関係を根本的に見直したいと思った」

 震災直後、会社を辞めた。丹波の農村に移り住み、有機農業を始めた。震災のとき、同じアパートに住んでいた川口雅子さんと子ども二人とで暮らす。

 目指すは自給自足。米や野菜を自分で作るだけでなく、間伐材を使った発電所の建設も仲間と計画している。小学校教諭の川口さんが家計を支え、東間さんが家事と育児をする。

 農村での暮らしは楽ではない。しかし「大量生産、大量消費の社会をつくったのは私たちの世代。自然への負荷を減らす責任がある」と東間さん。

 人の営みに、自然が悲鳴を上げている。一方的な侵害が続けば、人知を超えた新たな災害がまた牙をむく。

2005/1/14
 

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