東日本大震災からきょうで10年。現地に赴いて、電波を通じて、自分たちの場所で-。それぞれの方法で今も被災地とつながり続ける人たちに聞いた。
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阪神・淡路大震災を機に生まれた兵庫県宝塚市のコミュニティーFM「エフエム宝塚」が、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県大槌町と毎週電話をつないで現地の話題を伝えている。大槌にできた臨時災害FMと2012年から番組を始め、今も現地のNPO代表理事が出演する。「離れていても大槌のことを伝え続けたい」。言葉を電波に乗せて、双方の思いは一つだ。
今年2月13日深夜、東北地方で最大震度6強の地震が起きた。大槌は震度3。その数日後、同町のNPO法人「まちづくり・ぐるっとおおつち」の代表理事小向幹雄さん(85)が番組で現地の状況を語った。
「(東日本大震災の)経験からすると揺れはまし。目立った被害はないが、しばらく続くと聞くと油断できないなあ、と」
番組名は「大槌町HOTリポート」。毎週、天気の話に始まり、ハード面の整備がどこまで進んだか、ピアニストが学校や体育館に演奏に訪れた-などと、まちの話題を提供している。
大槌町は地震翌年の12年に臨時災害FM「おおつちさいがいエフエム」を開局した。宝塚が大槌に職員派遣をしていたこともあり、しばらくして復興の現状や観光の話題を電話で聞くコーナーが始まった。
双方のラジオ局は番組以外にも交流を続けた。13年に大槌が宝塚で物産展を開き、翌年には宝塚が大槌に携帯型ラジオを贈った。
15年には番組を担当するエフエム宝塚のパーソナリティー松本かのんさんとプロデューサー宇都康弘さん(40)が大槌を訪問。カーナビは街を示すのに、目の前に広がるのは更地で「胸にくるものがあった」と2人は振り返る。
16年3月末に臨時災害FMは閉局。「せっかくのご縁は大事にしたい」とエフエム宝塚の申し出に応じたのが、NPO代表理事の小向さんだ。以前から交流があり「全国の方が心配、支援してくれている。おかげさまで元気に復興していることを伝えたい」と快諾した。
宇都さんは大槌を訪れた時のことを忘れない。町民が口々に言ってくれた。来てくれてありがとう。伝えてくれてありがとう-。「途絶えたらそこまで。知らせ、伝える。遠くても、できる支援を考えている」
松本さんは「すてきな人たちがたくさんいる大槌町を知ってほしい」と話している。大槌町HOTリポートは毎週火曜午後3時半ごろから放送している。(中川 恵)