岩見一平さん
岩見一平さん

 リラクセーションサロンを兵庫県西宮市内で営む傍ら、パラスポーツの指導者として活動の幅を広げる。一昨年の東京パラリンピック陸上男子100メートル(車いすT52)で、大矢勇気選手(41)=D2C、西宮市=の銀メダル獲得を支えた相棒だ。

 大矢選手とは2012年、サロンの店長と客として出会った。自身はそれまでパラスポーツに携わったことはなく、専属コーチになることは想像もしなかった。施術中に相談に乗るうち、深入りし、いつの間にか引き込まれていった。

 例えばこう。「どこに筋肉を付けたらいいですかね」と尋ねてくる大矢選手に「手首が大事じゃないですか」と答える…だけでは気が済まない。握力計を買って成果を数値化し、タイムとの相関を見たくなる。「やるからには勝ちにいかなあかんって思う性分なんです」

 自身が20代の頃にオートバイのチームをつくってレースに出ていた経験から、小さな改良の積み重ねで記録を短縮していく競技になじみがあった。工業高校の機械科出身で、「レーサー」と呼ばれる競技用車いすの調整も得意分野。座る位置の修正は大きな飛躍につながった。

 東京パラで大矢選手が銀メダルを取ると、首相や文部科学相から、指導者の功績をたたえる感謝状や顕彰状が届いた。「頑張ったのは大矢さん。僕は何もしてないんですけどね」と恐縮しながらも「認めてもらったからには経験を広く還元していきたい」と思いを新たにする。

 地域の大会では、スタッフは無償で、競技のルールを詳しく知らない高齢者が務めることも珍しくないという。選手がそろわずレースが開けないことも。有償にしてきちんと体制を組めるよう、競技者を支える人のためのNPO法人を年内に設立するつもりだ。「大矢さんもいつかは引退する。指導者になろうにも、若手がいないと」と、裾野の拡大を誓う。大矢選手と同い年の41歳。(吉田敦史)

【メモ】自然の中での遊びが得意で、本州にいるヘビ8種は全て捕まえたことがある。爬虫(はちゅう)類採集が好きな男子200メートル(車いすT54)日本記録保持者の生馬(いこま)知季選手(31)と意気投合し、よく一緒に山へ出かける。