兵庫県芦屋市が構想するJR芦屋駅南での再開発事業は、市議会の合意を得られないまま、1年以上も中断が続いている。市は関連議案を出すたびに否定され、現在、計画を再検証している。市議会では巨額の事業費やビル建設への反発が根強い一方、「市長が嫌いで反対してはいないか」と疑問視する声も上がり、争点は複雑化。なぜここまで混迷が深まったのか-。市は膠着(こうちゃく)状態の解消を目指し、25日に市議会に意見を聞く場を設ける。(大田将之)
■交通課題解決は一致
停車のハザードランプが無数に瞬く。JR芦屋駅の南口。夕方、家族らを出迎える車列が道路脇に続き、その隙間を危なっかしく横切る歩行者が目立つ。
市は再開発の目的を「交通課題の解決」とし、その点については議会側もおおむね必要性に理解を示す。
その上で、争点となっているのは主に2点だ。
一つは「事業手法」。
市の当初計画は、道幅を広げ、バスロータリーや歩道を整備し、安全な交通環境を確保した上で、11階建ての駅前ビルを建てるというものだ。ビルには商業施設や住宅、公益施設を設け、保留床の売却益で事業費を抑えるとした。
これに対し、一部の市議は将来的に人口は減るとして「巨大なハコモノは不要」と反対。事業は「道路拡張」に絞ればよいとし、市に再考を求めている。
ただ、この案に市は難色を示す。確かに財政負担は軽くなるが、道幅を広げるには地権者に立ち退いてもらわなければならない。再開発ビルがあれば入居してもらえるが、道路拡張に絞ると、移転交渉は難航しかねないとみる。
■市は行革効果を強調
もう一つは「事業費」。
2018年、山中健・前市長は総事業費約130億円で議会の承認を得ていた。だが19年4月に伊藤舞市長が初当選し、約201億円に増額修正。市は議会の反発を受けて同11月に約167億円まで圧縮したが、今も納得させられていない。
事業費が膨らむ一因は、再開発への期待が高まるほどに、地価が上がるからだ。上昇率は県内1位を記録し続けている。
さらに、市が毎年2月に出す「長期財政収支見込み」を巡って議会は反発を強めている。
市は昨年、基金残高が27年度に底を突くとしたが、今年2月には「行財政改革に取り組む」として大幅改善を示した。公共施設を最適化し、業務も見直すことを見込んだ試算という。
これに、ある反対派市議は「行革の説明が不十分で、本気度が伝わってこない」と譲らない。総事業費は依然として高すぎるとし「まだ削れる部分がある」と見直しを求めている。
■今回は対話を重視
「反対の動機が、政策に対してではなく、政治の問題になっていないか」
ある市議はそう話す。伊藤市長は19年、自民党の推薦も得た女性候補を593票差で破り初当選した。過熱した選挙はまちを二分し、今もしこりを残しているかもしれないという。
3月22日、議会に4度目の「ノー」を突きつけられた伊藤市長は「今回の再検証を最後の機会と捉え、覚悟を持って臨む」と語った。これまで議会に議決の再考を求める「再議」を2回も請求。今回は衝突を回避し、対話に徹するという。
一部市議は、再開発を推し進めようとする市を「議会軽視だ」と語気を強めるが、別の市議は「山中市長時代に議会も事業を認めた経緯がある」としており、受け止め方は会派や個人で異なっている。
25日の会合は、普段は答弁に立つ市側から各会派、市議に質問をする。午後1時からで一般傍聴も可能。