「僕らとは無縁だと思っていた」。ゲイの新井智尊さん（４１）と田辺義宗さん（３５）は２０２１年１０月４日、尼崎市でパートナーシップの宣誓をした。２人の薬指にマリッジリングが光る。不安を抱きながら、「結婚指輪に性別は関係ない」と掲げる神戸のジュエリーショップで購入した。同様の店は増えつつある。２人は幸せをかみしめ、社会の変化を実感する。（大田将之）

　■打ち明けられない

　昨年９月、智尊さんがプロポーズした。義宗さんは「正直、何を言われているのか分からなかった」が、徐々に実感がわき、３日後に号泣した。

　指輪には、名前と付き合い始めた日、クローバーのマークが刻まれている。頑丈で丸っこいデザインが気に入っている。

　ゲイだと明かさず、２人でいても友達に見えるよう気を配る。旅行が好きだ。誰も知っている人がいない土地は気が楽だから。一つのスーツケースに２人分の荷物を詰め、ささやかに恋人気分を味わう。

　街で手をつなぐ男性カップルを見たことがある。ひそひそ声が聞こえた。「見た？」「男２人やで」

　「すごいな」と感心し、うらやましくもなる。そんな勇気はない。インターネット上に差別発言が飛び交う。好奇の目や悪意はいつ自分たちに向くか分からない。傷つくのは怖い。

　両親から「結婚は」と聞かれるたびに、苦しい。生涯一緒にいたい人がいるのに。「いつやろうなぁ」と濁す。父と母は理想の夫婦。「２人みたいになれたよ」。いつか伝えたいが、理解してもらえるだろうか。

　智尊さんは余計な心配をかけまいと割り切り、打ち明けるつもりはない。

　■初めての「おめでとう」

　「指輪を選びに行こう」と智尊さんが提案した。義宗さんは「現実味はなかった」。ブライダルジュエリー店は「男女のための別世界」だと思っていた。しかも２人で行けば、店にゲイだと明かすことになる。

　智尊さんは方法はないかとインターネットで調べ、ある店を見つけた。神戸市中央区の「ｇａｒｄｅｎ神戸三ノ宮」。ホームページに「ＬＧＢＴカップル様の結婚指輪選びを全力でサポートします」とあった。

　不安の中、予約メールに「同性カップルです。大丈夫でしょうか？」と添えた。「お気になさらず、大丈夫ですよ」と返ってきた。

　プロポーズから約１週間後。いつも通り友達のような距離感で三宮センター街を歩き、開店したばかりの店に着いた。ガラス張り。身構え、心拍数が上がる。

　「うろうろすると逆に怪しいかも」「予約したし、行かないわけにいかない」「よしっ」。意を決した智尊さんが、扉を開けた。

　奥の席に通された。義宗さんは店外が気になり、入り口に背を向けて座った。

　おしぼりと高級チョコレートが出てきた。店員に「結婚指輪を」と切り出すと、「おめでとうございます！」と言われた。そんな風に祝福されたことはほとんどなかった。

　■「こんなに幸せなんだ」

　ゲイカップルだと知られた上で人と接するのはほぼ初めて。最初は落ち着かなかったが、智尊さんはすぐに「大丈夫」と思えた。

　店長の栄美幸さん（３０）のおかげだ。ブランドは約８０種類。栄さんに付き添われて一つずつ試した。似合うようアドバイスもくれた。笑い話も交えながら。

　「過度に気を使われることもなく、自然。男女のカップルもこんな風に接客されてるんだろうなって」

　義宗さんは、男女のカップルが来店すると、どきっとした。しかし、こちらを気にする様子はない。「案外、普通なのかも」と緊張がほぐれていった。

　「これいいね」「こっちはちょっと」と言い合い、選んだ。「結婚する男女ってこんな気持ちなんだ。こうやって夫婦になるんだ。こんなに幸せなんだ」

　「性別は関係ないです」と栄さん。当事者カップルを担当したのは初めてだが「気持ちにはいつもと全く違いはありませんでした」。

　兵庫、大阪、京都に７店あるブライダルジュエリー店。社として３年前からＬＧＢＴフレンドリーを掲げる。予約メールに要望を書けば、柔軟に対応する。

　智尊さんと義宗さんのことはよく覚えている。「互いに尊重し合っていて、すごくお似合いでした」

　約２カ月後、２人は再び店へ行き、出来上がった指輪を着けた。きらきらのショーケースを回ったことを思い出す。今もカミングアウトするつもりはない。ただ、幸せを実感しながら指輪を選んだひとときはありのままの２人でいられた。

　店を出て、２人は思った。「周りの目を意識しすぎていたかも」「少しだけど、世の中も変わりつつあるのかな」