退職金は、老後の生活設計を考える上で欠かせません。個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」、企業型確定拠出年金(DC)を利用している人は、退職金との受け取り方によって、手取り額が変わることがあります。ファイナンシャルプランナーの山下幸子さんに説明してもらいました。(聞き手・斉藤正志)
-企業が掛け金を拠出して、従業員が年金資産の運用をするDCと、個人で掛け金を出して、金融商品の運用をするiDeCo。どちらも受け取りは原則60歳以降ですが、どのような方法があるのでしょうか。
「受け取り方は一時金(一括)、年金(分割)、一時金と年金の併用の3種類があります。一括で受け取れば、税金が最も少ないケースが多いですが、知っておいた方がいいことがあります」
-どういうことですか。
「退職金と、iDeCo、DCの資産を一括で受け取ると、退職所得として扱われ、合算して『退職所得控除』の対象になります。税金の優遇が非常に大きいので、この控除をきちんと使いたいものです。予備知識なく何となく手続きすれば、後になって『あの時こうしていればよかった』となりかねません」
-退職所得控除の使い方がポイントなんですね。
「『退職金の5年ルール』を使えば、一括で受け取るよりも税金が軽減できる場合があります。これはiDeCo、DCの資産を受け取った後、5年以上たってから退職金を受け取ると、再び退職所得控除が利用できる制度です。いわば『両取り』です。税金が最も少なくなります」
-退職所得控除はどのように計算するのですか。
「勤続年数が20年以下の場合は『40万円×年数』、20年を超える場合は『800万円+70万円×(年数-20年)』で計算します。受取額が退職所得控除の額より少なければ、税金はゼロになります」
「課税額を計算するには、受取額から退職所得控除の額を引き、さらに2で割ります。その課税額を基に、所得税、住民税が計算されます」
-具体例があればお願いします。
「勤続年数35年、退職金2千万円、iDeCo(加入期間15年)の資産500万円のケースで計算します。退職所得控除は『800万円+70万円×(35年-20年)』で1850万円です」
「60歳で、退職金とiDeCoの計2500万円を一括で受け取った場合、退職所得控除の1850万円を引き、2で割った325万円が課税額になります。所得税、住民税を計算すると、納税額は計約55万7千円になります」
「ところが、iDeCoの資産を先に受け取り、5年経過後に退職金を一括で受け取った場合、納税額は計約11万3千円で、計約44万4千円も安くなります」
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【山下幸子(やました・ゆきこ)】 大阪府池田市出身。同志社女子大卒。アパレル会社、不動産会社、専業主婦などを経て、ファイナンシャルプランナー(CFP)の資格を取得。2001年に山下FP企画(兵庫県西宮市)を設立した。企業などで、人生設計とマネープランなどをテーマにしたセミナーの講師を務めている。