むしゃむしゃと、大好きな竹を頬張る。ひたすら食べ続け、腹いっぱいになるとだらしない格好でごろり。
神戸市立王子動物園(同市灘区王子町3)の人気者、ジャイアントパンダの「タンタン(旦旦)」は、新型コロナの影響で入場制限がかけられている今も、いつも通りのリラックスした姿で来園者の視線を集める。
きょう15日、中国との契約期限が切れ、古里への帰国が決まっているタンタン。正式な日取りは未定だが、別れの日は刻一刻と近づいている。
タンタンは2000年、日中共同飼育繁殖研究の名目で初代「コウコウ(興興)」と来園。繁殖能力に疑問符がついた初代は02年に帰国し、2代目とは10年に死別した。
以降、同園で唯一のパンダとして過ごしてきた。
研究のほかに、タンタンの来園には、1995年1月の阪神・淡路大震災で傷ついた神戸市民の心を癒やす目的があった。
竹をつかみ器用に口に運ぶ、肩を揺らしてゆっくりと歩く、脚を上げてダイナミックに眠る-。愛らしい姿で見る人の心をほぐしてきた。
6月下旬、園を訪れると、目を赤くしてパンダ舎を見つめる1人の女性がいた。横浜市のアルバイト善積整子さん(60)。「タンタンにお礼が言いたくて」と、遠路はるばる訪れたという。
神戸市垂水区出身の善積さんは、結婚を機に23歳で横浜に移り住んだ。母が1人で暮らしていた実家は、震災で半壊に。母も横浜へ移ったため、神戸は縁遠い場所になっていた。
そんな善積さんが再び神戸に通うようになったきっかけが、他でもないタンタンだった。
「大好きな神戸と私をもう一度つないでくれた。タンタンは私にとって唯一無二の存在なんです」
“運命の出会い”は実は最近だ。2017年6月、上野動物園(東京都)に「シャンシャン(香香)」が誕生したのを機にパンダが好きになった。パンダがいる動物園は全国に3カ所だけ。王子動物園にも足が向いた。
「一目ぼれだった」と善積さん。他の園のパンダと比べ脚が短く、顔は丸い。座って食事する上品な姿にも心引かれた。
来神20年になるタンタンの波瀾(はらん)万丈の日々を知るにつれ、気になって仕方がない存在になった。
以後、3カ月に2回ほどのペースで来神し、ホテルに泊まって1週間、飽きることなくタンタンを見つめた。
「帰国は正直さみしくて、頭からタンタンが離れない。今まで本当にありがとう」。かみしめるようにつぶやいた。
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多くの人を夢中にさせ、勇気づけてきたタンタン。何がそんなに人を引きつけるのか。神戸で過ごした20年を振り返る。(谷川直生)