神戸人形の代表作「ビール河童(かっぱ)」(右)などを手にする吉田綾さん=神戸市東灘区住吉山手8
神戸人形の代表作「ビール河童(かっぱ)」(右)などを手にする吉田綾さん=神戸市東灘区住吉山手8

 台のつまみを回すとかっぱや動物がこっけいな動きを見せる木製のからくり人形「神戸人形」は、明治期以降に広まり、今もファンは多い。阪神・淡路大震災後にいったん作り手がいなくなった後、人形美術家の吉田太郎さんが制作を担ってきたが、今年2月に54歳で急逝。再び途絶えかけた神戸人形の系譜は、太郎さんと一緒に人形劇用の人形を作ってきた妻の綾さん(56)がつなぐことを決めた。(井原尚基)

■神戸人形づくりは天職

 太郎さんは神戸・元町生まれ。幼いころから地元の玩具店で神戸人形を眺めながら育った。京都産業大の人形劇部を経て入った「人形劇団京芸」(京都府宇治市)で京都市出身の綾さんと知り合い、1993年に結婚。97年、神戸市東灘区にアトリエ「工房太郎」を開設し、各地の劇団で使われる人形の制作を二人三脚で手がけてきた。

 2015年、神戸人形を制作する人がいないことを憂いていた太郎さんに「自分で作ったらいいやん」と声をかけたのは、綾さんだった。太郎さんは、日本玩具博物館(姫路市香寺町)が所蔵している作品などを通じて造形や技術を習得。毎年、干支(えと)の動物にちなんだオリジナル作品を発表するなど、神戸人形の復興に力を注いできた。

【動画】昨年の「辰車」作りの様子

 太郎さんは生前、「幼いころから抱き続けた興味と、人形劇を通じて培った技術の両方を生かせる天職が神戸人形づくりだ」と常々綾さんに語ってきたという。

 だが今年1月、太郎さんは体調を崩し、2月5日に入院。同月21日、血球貪食(どんしょく)症候群による多臓器不全で亡くなった。残された綾さんは「夫は神戸人形づくりの技を次の世代へつなごうとしていた。その強い遺志を私が継がないという選択肢は考えられない」とバトンを引き受けた。

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