オレンジの服を着た参政党の陣営関係者に対し、プラカードを掲げて抗議する人たち。やじを飛ばす人もおり、双方の間にトラブルを警戒する警察官が立っていた=17日午後、神戸市中央区加納町6、東遊園地
オレンジの服を着た参政党の陣営関係者に対し、プラカードを掲げて抗議する人たち。やじを飛ばす人もおり、双方の間にトラブルを警戒する警察官が立っていた=17日午後、神戸市中央区加納町6、東遊園地

 政治家や政党の街頭演説に対し、やじやプラカードで対抗する「カウンター」と呼ばれる抗議活動が、20日投開票の参院選兵庫選挙区で激化している。支持者らと小競り合いや口論になる映像がインターネット上で拡散され、政治家が対立をあおるような発言をする例もある。兵庫県警は選挙最終日を控え、トラブル警戒を強めている。(参院選取材班)

参政党代表の演説にやじ

 17日午後、神戸市中央区の東遊園地であった参政党の街頭演説。神谷宗幣代表の前に集まった聴衆を、プラカードを掲げる数十人が囲んだ。「差別政党」「わたしは差別に抗う」などの文言が書かれている。

 プラカードを手に黙って立っている人もいるが、「レイシスト(人種差別主義者)帰れ」「演説しょうもないぞ」「くそ政党」などと大声でやじを飛ばす人も。いらだった支持者と至近距離でにらみ合いになり、双方の間に警察官が割り込んで制止する場面もあった。

 参政党への抗議活動に継続して参加している神戸市の40代男性は「集まりは自然発生。連絡を取り合うことはない」と説明。淡路市の50代女性は「差別を扇動するキャッチフレーズはおかしいと思い、一人で初めて参加した」と語った。

ヘイトスピーチへの対抗手段として活発化

 政治活動を巡る「カウンター」は2010年代、在日コリアンに対する街頭でのヘイトスピーチ(憎悪表現)を封じようとするグループが用い始め、東京や大阪を中心に兵庫でも行われていた。昨年11月の知事選で斎藤元彦知事が再選したのを機に、斎藤県政などへの抗議活動として再び活発化。斎藤知事が出席する行事などで見られるようになった。

 選挙活動を巡っては知事選後、告発文書問題について発言を続ける「NHK党」党首、立花孝志氏の街頭演説などで対立が激しくなり、参院選が迫ると、参政党の街頭演説でも発生するようになった。同党が掲げる「日本人ファースト」に対し、排外主義との批判が噴出している。

 参院選でのカウンターは自民党や公明党、日本維新の会、れいわ新選組、無所属の街頭演説ではほとんど見られず、参政党とNHK党に集中している。

政治家らも反応「ふざけるな」

 17日の演説で神谷代表はやじを飛ばす人たちに向け「なんでこんなにヘイトだなんだと言うんですか。おまえら日本を悪くしたいのか。ふざけるな」と叫んだ。演説後の取材では「(カウンターは)迷惑だけど、あれで盛り上げにもなっている。彼らの狙いは外れている」と話した。

 一方、立花氏は演説中にやじを飛ばす行為を「選挙妨害」と主張し、交流サイト(SNS)にも発信。演説中の言い合いも辞さず、13日に神戸・三宮で行った街頭演説では「おまえみたいなやつを殺すために法律をつくったるがな。選挙の妨害をするやつを殺す、死刑にする。せめて、かわいそうやから懲役30年にしといたる」などと発言した。

 県警は「表現の自由を考慮しつつ、公共の安全と秩序を害する恐れがある場合は、必要な対応を取る。違法行為があれば厳正に対処する」との方針を各警察署に通知。それぞれの陣営が自主的に警備するのが原則だが、トラブル発生の恐れが大きい演説会場では警戒を強化している。

識者「感情的対立、政治が解消を」

 選挙制度に詳しい立命館大の小松浩教授(憲法学)は、昨年4月の衆院補選であった「つばさの党」選挙妨害事件に触れ「大音量のスピーカーを使ったような状況では『選挙の自由妨害』は認められるが、肉声でやじを飛ばす程度では認められない。むしろ候補者の演説に『それはうそですよね』と、その場で指摘するのは、表現の自由や民主主義の観点から健全」とする。

 一方、演説の場で感情的対立が激しくなる現状に「非常に深刻な分断が起きている米国のような段階に日本も入ってきているのかもしれず、民主主義にとって不幸なこと。対立の背景には政治や経済、社会に対する不満や怒りがあり、政治がこれを解消する必要がある」と話す。