がん治療新時代-。明るい見出しが躍る。2003年元日の神戸新聞朝刊で1面トップを飾ったのは、粒子線医療センターが全国の自治体で初の一般診療を始めるという記事だった。
建設費は約280億円。放射線治療といえば、ほぼエックス線しかなかった当時、痛みや副作用が少ない粒子線は「魔法のメス」と称賛された。そんな「最先端」施設が22年たった今、廃止を議論されている。
同センターのあり方検討委員会が5月にまとめた報告書は「将来的な患者数の増加は見込み難く、現地における治療ニーズは低下している」と指摘し、「27年度末までに撤退することが望ましい」と結論づけた。
兵庫県庁近くで5月末に開かれた病院構造改革委員会。オンライン参加した沖本智昭院長は「一番重要なことは、粒子線治療装置の耐用年数が25年ちょっとぐらいしかないこと」と強調した。製造会社が示した耐用年数は、実は15年だった。
なぜリニューアルができないのか。背景にはどのような問題があるのか。現地を訪ねた。
神戸から車で1時間半以上。センターのパンフレットの交通アクセスには東京や九州からの時間も記されている。県内利用を基準にしていないように見えた。
当初のコンセプトに基づき旅館のような外観だが、加速器がある心臓部は「工場」のようだ。24年度の電気代は約2億2千万円。18年に製造中止された電圧増幅用の真空管は、在庫でつないでいる。手のひらサイズを想像していたが、大人2人で開けるような大きな木箱に入っていた。
その真空管を半導体に変更するなど大規模補修をするなら156億円、設備の総入れ替えなら220億円が必要という。収支均衡には年間千人ほどの利用が必要だが、24年度の患者数は355人。センターは同年度、10億円を超す経常赤字を出していた。
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■先進治療普及、患者は分散
医師たちは大型モニターをにらみ、治療計画に見落としや改善の余地がないか議論していた。7月24日朝。粒子線医療センターのカンファレンス(会議)は、神戸の付属施設と回線でつなぎ、患者一人一人の検討が続いた。巨大な先進医療の機器があるからといって、それだけで治療が成立するわけではない。蓄積された知恵と技が、治療成績を支えている。